Koutarou Minakami anniversary Ver.













「……」

 死に物狂いで辿り着いた我が家(と言うと家主から蹴りが飛んでくるが)に愛おしい人の姿はなかった。
 書き置き無し。
 メールも無し。
 留守電も無し。

 現在PM10時26分。

 にゃ〜ん。

「……」

『メールが届きました』

「…………皆守甲太郎は預かった、?って、なんだよこれ……」

 神様。
 というか誰でもいいので俺の甲太郎返して下さい。















アニバーサリーハッピーセット














PM 11:08
 
「……」
「よぉ、遅かったなー」
「ひーちゃんそれ俺の!」
「やあ、よくきたね」

 謎の(しかしバレバレの)メールで指定された都内某所にある骨董屋の扉を開ければ、知った顔が3つ。
 いやまあこんなことじゃないかな。なんては思ってたけどここまで予想通りだと何かこう、さあ……。

「つーか甲太郎のカレー!!」
「うまかったぞ」
「今日は特に、な。……昨晩から仕込んでたみたいだし」
「───ッ!!!」

 畳に卓袱台を囲んで大の男が3人、そこにカレー皿なんてわかりやすい証拠は置いてなかったけど、酒精に紛れて漂うカレーの残り香を感じ取れない俺ではない(特に甲太郎のカレーは)
 いったいいつから飲んでるんだというか俺の分のカレーは!?という切実な問題の答はあっさり出た。

「───ない、の?」
「ない」
「わりぃ全部食っちまった」
「すまない」

 遺跡でトラップに引っかかった時だってこんなにダメージ喰らわないっていうのに、嘘だろーと愕然とした俺にこの家の主がそっと飲み物を渡してくれた。あんなにあざとい商売してる人とは思えないくらい極々普通の優しさにそっと涙がって、

「なんでウーロン茶!」
 
 あんたらの前にあるのはなんなんだ!と500mlのペットボトルを持ったまま指差せば、声を揃えて、

「未成年」
「お酒は二十歳になってから」
「そーゆうことらしいな〜」

 約一名能天気な人がいるけど他の二人は絶対わかってて言ってる!俺だってあと2ヶ月後には二十歳だっての!だいたい主賓は、

「……だからって甲太郎、つぶさなくてもいいじゃん」
「いやまさかこの歳になって飲んだことがないとは思ってなくて」
「ここまで弱いなんてなー……」
「二日酔いに効く薬ならあるから心配はいらないよ」

 前後の台詞と矛盾したことを宣い、親切を装って商魂逞しくにこやかに朗らかに爽やかに笑いあう3人のその背後の壁際で座布団を枕に一応毛布に丸まっているのが本日の主賓、俺の恋人(ここ重要)、カレーの天才、───めでたく二十歳となった、皆守甲太郎。
 カレーをつくらされ(まあこれは頼まれなくなって自主的にやるけど)酒を飲まされ潰されてそれでいいのか甲太郎!と、肩をつかんで揺さぶってやりたいけどそんなことをしたら俺が蹴られる(年に関らずヒエラルキーの底辺は俺だわかってるんだ)
 畜生これが歳の差かよ。と言えばきっと三者三様、俺みたいな若造が太刀打ちできないことを言ってくるに決まってる。
 しかし。
 しかしだ。

「てゆーかこの『皆守甲太郎は預かった。返して欲しければ云々』ってどこのB級映画ですか」
「嘘は言ってないだろう」
「言ってないですけどっていうかメルアドで龍麻さんってバレバレなんですけど!」
「まーまー座れ未成年」
「その未成年の前で酒なんぞ飲むなー」
「うまいぞ」
「うぎゃあもうちくしょう」
「それよりひとつ訊きたいんだが、」
「……なんでしょうか」

 そっくりだよこの従兄弟。と眠っている甲太郎のというか静かに上下する毛布のかたまりと、横で高そうな酒(いいなぁ)を水のように煽る龍麻さんに視線を流す。

「お前はあいつを連れていくのか?」

 どこへとかどこにとか具体的なことは何も言われなかったけど。
 真っ黒な目が俺を真っ直ぐ見てて俺はごく自然に背筋を伸ばす。
 なんというか、よくわからないけど、ここで負けたら駄目だと思う前に、

「……連れていくんじゃなくて、一緒に行くんです」

 すんなりと、考えるまでもなくその言葉は出た。
  
「俺は《宝探し屋》だから世界中どこへでも行くし、そうなると甲太郎も一緒に行くことになると思うけど、でもそこは危険がないとは言えないし何があっても必ず守るとは言えないけどむしろ俺が助けてもらうことの方が多いのかもしれないけどでも、俺は俺のできることを、全身全霊で甲太郎を護って全力で愛します一生。それに、」

 あの日屋上で。
 俺の手を甲太郎は掴んだ。
 はじめて甲太郎が俺の腕をとった。
 俺はようやく掴んだ大切なものを放すほど潔くない。
 世界でたったひとりの俺の大切な人を置いていけるほど俺は大人じゃないから。
 
「……必ずここに帰ってくる。ってことじゃ駄目ですか?」
「───飲め」
「え?」
「許す」
「……」

その言葉が目の前のアルコールのことだけじゃなく、他のものの全部ひっくるめて許されたような気がして、俺はただ頷いて。
 いや別に誰かに許してもらうようなことでもないんだけど。 
 でも何か、甲太郎の、甲太郎が心を許してる人に認めてもらえるっていうのは、やっぱり。

「……九龍?」
「え?あ!甲太郎!!」

 もぞもぞと毛布が動いて癖だらけの頭が起き上がる。ゆっくりとこっちを向いた顔はほんのりと赤くて、どこかぼんやりとしている目がゆるゆると何かを探すように彷徨って。

「うわー逢いたかったってゆーか誕生日おめ───うゴ?」

 久しぶりに見た甲太郎の顔に何もかも吹っ飛んで、思わず抱きつこうとした俺の腹に何かがぶつかってきてそのままひっくりかえる。
 うおう不意打ちだてゆうかこういうキャラだっけ?と、少しだけ滲んだ視界に映ってるのはたぶん、

「……こ、甲太郎さん?」

 人の上に乗り上げて、俺を見下ろす甲太郎の目は座っていた。 
 逆光に浮かぶ細身には何かいい知れないオーラが立ち昇っていて、だらりと下げられたままの両腕が何かこわい。
 トラが!オオトラがいるんですけどー!とつい保護者に助けを求めそうになった俺に、低い声が投げかけられ、
 
「───脱げ」
「は、はいぃぃいいぃぃぃい!?」

 脱げっていうか脱がしてますよあなた!酒乱!?誰だよこいつに酒飲ましたの!自称保護者だよ!っていうか黙って見てないで助けて下さいってば!とひとり(ホントに俺ひとりで他はなんとゆーか我関せずっていうか生暖かいっていうか何か誤解してませんか!?的な)パニくってると、
 
「……けが、」
「毛?」
「怪我してねーな」
「……」

 ええっと、とりあえず今考えたことはなかったことにして、捲り上げたシャツを握り締めてる甲太郎の手に無意識に触れる。
 今、口を開くと何を口走るかわからないから、かわりに、もう一方の手で俯いたままの甲太郎の髪を撫でると。
 
「してねーなら、いいんだ」

 ぽつり、と。溢れたその声音に俺が頭が真っ白になる。
 なんだこれ。
 なんなんだよ、俺なんで泣きそうなの?
 お前がそんな貌でそんな声で───。

「おかえり」
「た、ただいま……」

 うああちくしょうデバガメ三人衆のことなんかきっぱり忘れていまここで押し倒してチューしてぇ。っていう本能をどうにかやりすごして、平静を装って出した声は我ながらぎこちなかった。いやだって滅多に見られない(夢の中だって)はかなげな(俺にはそうとしか見えない)笑みを浮かべる甲太郎の顔がゆっくりと近づいてきて、そのままやわらかい髪が胸に落ちて呼気が首筋をくすぐって───。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……こーたろー?」
「……」
「───……寝落ち!?」

 規則正しい心音とすうすうと安らかな寝息が首にかかってでもいやまさかって思って視線だけで甲太郎を見れば寝てやがりますよこの男!俺に乗っかったまま!襲うぞこんちくしょう俺の純情返せー!ああもう幸せだけど切ないっていうかいつまで乗ってるんだお前とジタバタ無駄に足掻いていると、
 

「───じゃ、あとは若い人同士で」
「その辺の物壊すとこいつがうるせーから気をつけろよー」
「誰も彼も君と同じだと思わない方がいいんじゃないのか」
「うっせーよ」
「え、ちょ、まっ」
「ごゆっくり。そうそう明日ってもう今日か、とりあえず休みらしいけど、」

 若い人同士ってお見合いかよ!と突っ込む間もなく部屋を出て行く背中をただ見送るしかない俺に、最後に残った龍麻さんが、にっこりと、笑う。
 どこかで見たことのある笑顔に一瞬、のまれかけた俺のあいてる手にポンと何やら軽い物が渡されて。

「ご利用は計画的に」
「───いや、ちょ、た、龍麻さん!?」
「俺からの誕生日プレゼント。ちゃんとリサーチ済みだから」
「だ、だから───ッ!!」
 
 ほどほどにな〜。と闊達に笑って(どこのご隠居だよ)今度こそ龍麻さんも消えて(ついでに電気まで消してくれて)
 残されたのは。
 俺と甲太郎と───。

(どどどどーしろと!?)

 度の過ぎた親心か純然たる嫌がらせか、どちらにしろ今もし万が一甲太郎が目を覚ましたら何かまずいような気がするというか俺は何も後ろめたいことなんかないのにつーか有り得ないだろう!

(開封済みってなんだー!!)
 
 手の中の箱を思わず握りしめて、盛大に溜息をつく。
 俺の上には覆い被さるように眠っている甲太郎。
 懐かしい花の香りとあたたかい呼気と穏やかに時を刻む心音。
 
(そーいえば俺、まだ、『おめでとう』って言ってねぇ……)

 どころかまともに会話も交わしてない。
 しかもこいつは酔ってたから、たぶんきっとおぼえてないんだろうなぁと思うと少しだけ泣けてる。
 でも。 
 それでも。
 
(酒くさ……)

 静かに、起こさないように(起きないってのはわかってるけど)横におろした甲太郎をぎゅっと抱きしめて、ただいまとおめでとうのキスをする。
 手探りで毛布を引き寄せて二人一緒に包まって、目を瞑る。
 日本に帰ってきてからというか甲太郎の誕生日を思い出したあの瞬間から、微妙なテンションでハイになったりローになったりとわけのわからない緊張感が切れるとなんだか疲れがどっときた。
 考えていたことの半分も言えず結局ほとんど何もできなかったけど。

(まあいいか……目が覚めたら……起きたら、)
 
 おはようと。
 おめでとうのキスだ。覚悟しろよ、甲太郎。
 来年も再来年もずっとずっと。














とりあえずアロマ誕生日おめでとうと言ってみる。
そして緋勇さんが何をあげたのかわからない人はわからなくても何の問題もありません(笑)
というか似たようなパターンばっかりでごめんなさい(つД`).......2006.04.12

↑(ご意見ご感想ボケツッコミなどありましたらお気軽にどうぞ〜)





それとアニバものなのでフリーです。何をどう祝っているのかさっぱりですが、よければ『お持ち帰り』『転載』などお気軽にどうぞ!(何かございましたら掲示板なりメールなり↑なりでお気軽にどうぞ〜)