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「……あんのくそガキ」 自宅のドアを開いて明かりもつけずに皆守は低く唸る。 もうすぐ日付も変わろうかという時間なのに家の中に人のいる気配はない。 紆余曲折を経て一緒に住んでいる子供はこんな時間に無断で出かけるような性格ではない。 それが連絡もメモもなく姿を消した。となると原因は、1人しかいない。 (いったいどこの誰に似やがったんだ) 黒のロングエプロンを剥ぎ取りつつ、皆守はそのまま外に出る。 『九龍』からそのまま飛び出してきた為白いシャツに黒いスラックスという姿で皆守は家の奥───森の方へと足を進める。 緑の芝生と遊歩道と一見公園に見えるこの土地が、以前墓地であった事を知る人間は少ない。 かつて立ち入り禁止だったこの場所も、今はきれいに整地され、学生や近隣住民の散歩コースとなっているのだが、ここが十数年前、崩壊をきっかけに、地下に遺跡が存在したということを示すのは中央に置かれた石碑だけである。 ───表向きは。 実際は今でも地下に遺跡は存在している。その大半は確かに崩壊したが、その後新たな区画が発見されている。 しかしそれは極一部の人間にしか知られていない。むしろ極秘事項なのだが。 (阿門も双樹もいない時に忍び込むとはいい度胸だ) そろそろ閉店という時間に、現在は皆守が都合のつかない時くらいにしか店にやってこない千貫が現れ店内を軽く見回した後『坊ちゃまの姿が見えなくなったのですが、こちらにはきていないようですね』とさらりと爆弾を落とした。嫌な予感がしてすぐ隣りの自宅に戻ってみれば、坊ちゃまと仲の良い皆守の養い子も、姿を消していて。 そして“坊ちゃま”は地下に遺跡があり、そこに行く為の隠された入り口の存在を、知っている。 「───光斗ッ」 「うぎゃ」 大広間と呼ばれるエリアにたどり着き迷う事なく新たに現れた扉───通称《訓練所》と呼ばれるエリアに飛び込んだ皆守は躊躇うことなく中にいた赤毛の少年の襟を後ろから掴んで引き倒し、今まさに攻撃を仕掛けようとしていた《化人》の腹に蹴りを叩き込み───。 「まったく、なんだってこんな目に……」 怠そうな声音を裏切る動きで全ての敵を光に変えた。 花も嵐も
「こ、」 「青───お前がついていながらなんでこのガキはここまで入り込んでるんだ?」 「だ、」 「……ええっとごめんなさい」 「甲っ」 「“甲太郎さん”だ。ら・い・と・ぼ・っ・ちゃ・ま」 「うっ」 「……それぐらいにしてあげたら?」 一応それなりに反省はしているようだし。っていうか死相が出始めてるよ。 と、皆守の足の下でもがいている赤毛の少年を見ながら、壁際で大人しく、けれど何かあればすぐ助けにいける姿勢で立っていた少年───黒髪黒眼の皆守の養い子───青がやんわりと保護者に告げる。 「このくらいでくたばってるようなら、《宝探し屋》なんざ100年経っても無理だ」 しかしその保護者はあっさりと切り捨てようやく一息ついたとでもいうようにポケットから銀色のパイプを取り出し火をつける。 「……アロマがうまいぜ」 「くっ、てめっ」 足の下の赤毛少年が長めの前髪の間から青い目で睨みつけてきたが、その程度で怯むような皆守ではない。 本当に。誰に似たのか。母親と同じ色の髪と父親と同じ色の目を持つ少年はしかし、性格はその両親のどちらにも似ておらずむしろ───。 (どうしてあいつはいてもいなくても面倒事を起こすんだ) 浮かんだ男の───能天気すぎる顔を即座に消して、皆守は往生際悪く足掻く少年を冷ややかに見下ろす。 あの男はああ見えて一応その道のプロだった。たとえ目算を誤り敵のど真ん中で弾切れになっても、最後の最後で罠の解除に失敗して発動させても───結局、どうにかしてしまった。生き残った。それはあの男が、その術を知っていたからだ。 だが。 「何か言ったか?坊ちゃま」 「ぼ、坊ちゃま言うなっ!」 「ここには入るなって言ったよな?」 「……」 「言ったよな?」 「……」 「言・っ・た・よ・な?」 「……言いました」 「お前も、入らないって言ったよな?」 「い、言いました」 「───なら、お前が今するべき事は何だ?」 「……」 「……なにか、言う事があるんじゃないのか?」 「……ご、」 「……」 「ごめんなさい」 「……」 「……」 「……」 「……すみませんでした」 「……」 「……」 「……」 「もうしませんっ!!」 「……あー、眠い」 「って聞いてねーのかよっ!!」 「どうやらまだ反省し足りないようだな」 「いた、ちょ、ま、ご、ごめんなさいすみませんもうしませんから許して下さいっ!!」 「───根性なしめ」 ほんの少し力を入れただけで鍛えられていない身体は簡単に悲鳴を上げる。 大人も子供も関係なく。 人は簡単に死ぬ。 けれど。 「くっそーなんだって俺がこんな……」 それは。 「何か言ったか?」 (知らなくてもいいことだ) 「べ、別にっ」 「とりあえず戻ったら説教だからな」 「あれで終わりじゃないのかよ!?」 「お前みたいな電源落ちたらリセットされるような8ビット脳には何度も何度も何度も何度も何度も繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し言わないとほとんどない皺に刻み込まないんだよ」 「……なんだよ8ビットって」 「あー……」 「なにお前わかんのか!?」 「……苦労してたんだね」 「現在進行形だ」 「俺にもわかるように話せー!」 諸事情によりとある《宝探し屋》に拾われた青と、その《宝探し屋》から青を預かることにした皆守が同時に、親友と、親友の息子に視線をやる。 そして。 「躾って苦手なんだ」 「いまからやればまだかろうじて間に合う。というか今から矯正していかないと後で苦労するのはお前だからな」 「放し飼いは?」 「───結果があれだ。それでも、いいのか?」 「……がんばる」 「そうだ。頑張れ。お前にならできる」 「だ、か、ら、なんなんだよっ!」 「うるさいそもそもお前が───」 ぎゃいぎゃいと騒ぐ少年を片手であしらいつつ、皆守が先に外に出て───そのまま止まった。 暗いはずの目の前が、明るい。 そしてその光の中に立っていた影が動いた。 「Happy Birthday!」 「誕生日おめでとう〜〜」 パーン。と軽い音がして夜空に色とりどりの紙が舞う。 「───な、」 んだ?という言葉は続かない。 いるはずのない人間が、いる。それだけでも充分、驚きに値するというのに。 「そんなの決まってるでしょー花見だよ花見ー」 「って違うよ九ちゃん!皆守クンのバースディパーティーだよ!」 「……」 いい年して九ちゃんも君付けもないだろう。と一度停止した思考は中々正常に動こうとしない。 ここ数ヶ月音信不通だった《宝探し屋》や學園の体育教師をやっている八千穂や私用で出かけたはずの阿門夫婦や《ロゼッタ》の研究員であるトトや七瀬、そしてその隣りにいる仕事中じゃないのかお前と思われる眼帯に木刀装備の警備員の姿を順に見遣り───。 「……そういうことか」 「ふっふっふ───ミッションコンプリートだぜ九龍っ!」 「よくやった光斗っ!さすが俺の弟子!」 (まったく……) 背だけは一人前に伸びた《宝探し屋》───葉佩九龍とハイタッチをする為にジャンプをして失敗した光斗というにわか師弟のやりとりをやや呆然と見ていた皆守が、ようやく表情を緩める。 「……どうりでお前がおとなしくついていくわけだ」 「まあ、色々大変だったけど」 「光斗か?」 「それは勿論だけど……メールが着たのが昨日だったから結局今學園にいる人達にしか連絡がまわせなくて」 「……あの馬鹿らしいな」 「でも楽しかったよ……光斗じゃないけどみんなで計画練って……って言っても時間がないからとりあえず日付変わる頃にとりあえず甲さんを連れ出せって俺たちそれだけ言われて」 「……へぇ」 「急だったからあんまりこったことはできなかったけど、ここに桜があるって九龍が言ってじゃあそこで花見兼甲さんの誕生日を祝おうってことになって」 それでこういうことになったんだけど。 という青の隣りで、森の中でたった一本だけ存在する桜の木をわざわざライトアップしてその下にレジャーシートが敷いてある即席の花見会場を見る。 皆守自身は昼頃に起きてからすぐ店で仕込みに入ったので、おそらく屋敷の方でつくられたのであろう料理とアルコールやジュースが用意されている。 《遺跡》に入る出入り口は実は複数ある。皆守が入った入り口は家の近くのもので、帰りはここ、屋敷に近い方を選んだ。 皆守にしてみれば光斗をさっさと屋敷に戻したかっただけなのだが。 《これって桜の木だろ?花咲くのって春なんだよなーってことは俺見れねーじゃん》 《……他の奴らだって知らないさ。ここに入り込む馬鹿はお前しかいない》 《ひでーな甲太郎》 (憶えてたのか) あの。 《絶対見に来るからな。ここの桜》 他愛のないやり取りを。 「そんなわけで、」 《憶えてろよ》 「花見だ」 塀に囲まれた學園の、人の立ち入ることのない場所でたった一本だけの、桜の木の下で、かつての仲間達が穏やかに笑っている。 その中心で、昔と変わらぬ悪童めいた貌でこちらを見ている男に、皆守も笑いかけた。 「九龍」 「ん?」 「───お前が光斗を遺跡に放り込んだのか?」 それまで和やかだった雰囲気がその絶対零度の声音に固まる。 「……な、なんのことかな?」 「こいつらは《訓練所》まで入り込んでたぞ」 「……どういうことだ葉佩」 「お、おちつけ阿門。ただでさえこわい顔がもっと怖いことになってるぞ?」 「……」 「いやだからお父さん、誤解。誤解ですから」 「九龍」 「なッ……にかな?」 皆守は笑っていた。 試行錯誤を繰り返したカレーが改心の出来だった時に見せる笑みと同じような、それでいて決定的に違う笑みを浮かべたまま、挙動不審な師匠を見、それから、その師匠からそっと離れようとしていた弟子に声をかけた。 「光斗」 「な、なんだよ」 「正直に言え───お前をあそこに放り込んだ馬鹿は誰だ?」 その声に逆らえる人間はこの場にはいなかった。 勿論、にわか弟子も例外ではなく。 「九龍」 即答だった。 「───ちょ、」 「……そうか」 「こ、ま、まてっ!」 「なんだ、遺言か?」 「違うッ違いますっ!!」 「ああ、つまり思い残すことはなにもないと?」 「ち、ちがっ」 「なんだよ、往生際が悪いな」 「甲太郎それきらきら笑顔で言うようなことじゃないよ!」 「じゃあな───九ちゃん」 「ぎゃーーーーー」 その夜。 ある學園の敷地内から人とも獣ともわからない奇声が聞こえた。 という通報が数件あったらしいのだが、その學園は十数年前と同じように沈黙を守った。 |
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アロ誕? アロ誕ですよ(暗示) ハッピーバースデー32歳( ´ ▽` )ノ つーか落ち着きのない三十路どもですみません。.......2007.04.12 ↑(ご意見ご感想ボケツッコミなどありましたらお気軽にどうぞ〜) |