A journey of a thousand miles starts with but a single step. 「リューイは?」 「……しなくてもいい反省なんかしちゃってるわよ」 「へー」 「ククール」 「何?」 「顔、」 「顔?」 「ヘンよ」 「…………」 -a lucky hit?- 荒れ放題というか壊され放題というのか。 お世辞にもきれいとも清潔ともいえない階段を駆け上がった所でゼシカとばったり会って、相変わらずマヒャド級に冷ややかな声でトドメを刺されはしたものの、その燃えるような色の、やわらかい髪が揺れて消えた扉の隣の部屋に入る為の気力だけは残すことができた。 (なんてったってオレって打たれ強いし?) 「リューイv」 「……なに」 案の定。っていうか予想通りっていうかいつも通りっていうのかこれは。 《……しなくてもいい反省なんかしちゃってるわよ》 ここでうっかり『かわいい』なんて漏らすようなヘマはもうさすがに出来ないからかわりに極上の笑みを浮かべる。本人は意識してないだろうけど、落ち込んだ時ってこいつ、ベッドの上に膝抱えて座り込む癖があんのよね。なんかぬいぐるみかなんか抱えさせたら完璧って気がしないでもないけどそれは絶対言えない。 かわりに。 「風呂入ろv」 「入れば。───ってうわ、ちょっと!」 砂!埃!汚れる!! なんで素直にごめんなさい。って言えないんだろうかこいつ。オレにだけ。と思わないでもないけれど。 まあ、客観的に考えても悪いのはオレなんだけど。 やさしくていい子のリューイ君にオレはつけ込んじゃうよ。 (てゆうかこんなチャンス滅多にないし) 「一緒に汚れて一緒にきれいになろうぜ」 「なんで飲んでんだよお前!」 ベッドに上がり込んで抱きついて耳元で呟けば、罵声とともに突き放される。 強かに打った背中をさすりつつ起き上がると、なぜか仁王立ちのリューイが目の前にいて。 ───ああ、そういえば。 「飲みたかったから?」 酒の勢いでした。ってことにしておけば、大概のことはどうにかなるでしょ? 「なんで疑問系」 「……だってお子様連れてはいけないでしょ」 「───見かけだけは聖職者の言うことか」 ……本気で怒ったリューイ君はかな〜り男前になるんだっけ? いやまあそれも好きなんだけど。 「見かけだけって言うのはひどくない?」 「じゃあ着てる服だけ」 「……えーっと、」 「もういいや」 「はい?」 「脱いで」 「え?」 「服」 「は?」 「風呂」 ※※※ 「あ、温かい」 「普通だろ」 「いや、なんか水風呂にでも入って頭を冷やしやがれってことかと……」 「───実はここに『凍えるチーズ』があったりするんだけど」 「しまって下さいお願いします」 「冗談だよ。この後おれも入るんだから」 「…………」 いやセンセー、目がマジでした。てゆうかその魔獣ががっくりしてるような気配がするのは気のせいですか? てか上着も脱いで(いつもの青シャツは着てるけど)バンダナも外してるのになんでいるんだその魔獣! 「トーポ、そんなのかじってもおいしくないよ」 「お前が舐めてくれるんならオレは別にってごめんなさいすみません冗談ですよハハハ」 そんなの呼ばわりをされた指が宙を泳いで泡の中に沈む。 姐さんがお気に入りの泡風呂用の石鹸を盛大に使い切ったので、甘ったるい匂いと泡に塗れてオレの裸体を見せられないのが残念vとか言ったら華奢な腕が問答無用で湯船に沈めてくれて死にかけたけどまあそれはいいとして。 どうにもさっきからいつも以上に滑らかな舌は隠しておいた方がいい本音ってやつを曝しまくっている。 安酒にやられたのかこのシチュエーションに浮かれまくっているのか。 当初の目的の『一緒に風呂』は達成できなかったけど(できるとも思ってなかったけど)、オレがこれ以上、バカなまねをしないように見張るつもりなのか、ほんのりと暖まった石畳の上に裸足で立ったままリューイがいる。 (肩の上に例の魔獣もいるが) 「なに?どうかした?」 気分だけでも王様って感じ?と勝手に思ってるとふと視線を感じて。 頭だけひっくり返ってみると思ったより近くにっていうかすぐ後ろにリューイがいて。 「そんなに長くて邪魔じゃない?」 「別に」 「なんで伸ばしてるの?」 「似合うからって、痛ッ」 ゴツ。っと音がして、湯船に入りきらなかった髪が引っ張られてそのまま頭を打ったオレの、少しだけ滲んだ視界に飛び込んできたのは、なんというか。 「なにその、練金で失敗した。みたいな顔は」 「あれって変なのできると凹むよね」 「凹んでらっしゃるんで?」 「うん。たぶん、ってゆうか」 濡れて額に張り付いた前髪をリューイの指がさらう。 「やっぱり兄弟だよねー」 「……どこ見て言ってんの」 「ここ」 ペチ。っと軽すぎる音を立ててリューイの手が離れる。 「なに?ご機嫌ですか?」 オレはあんまりご機嫌じゃなくなりましたが。 「たぶん」 「……それは良かったですねお兄さんも嬉しいですよ」 「誰がお兄さん?」 「目の前にいるでしょ」 「いるのは酔っぱらい」 「もう酔ってないって」 「……酔っぱらいはみんなそう言うんだ」 やけに実感のこもった声に思わず笑う。 「笑うな」 「や、ごめん」 いやもうだってさ、そーいう場面が易々と想像できて。 なんだろうね。なんでこう、 「酔い醒めたから一緒に入ろ」 「無理」 即答ですか。っていうか意味、わかってないだろうね、やっぱり。 「じゃあ温泉!温泉だったらいいだろ!?」 「……おんせんって何?」 「でっかい天然の風呂だよ」 「…………どこにあるの?」 「え?マジ一緒に入ってくれんの!?」 「いやそれは別でなんか見てみたいかな。って」 「おっし!じゃあ探しに行こうぜ!」 「は?いやちょっと待って、今は───」 「ああうんだから全部終わったら」 「…………」 「杖見つけて王様と姫様の呪いを解いたら」 「…………」 「その後に、」 「…………」 「ちょっと世界を一周するくらいの時間は、」 「…………」 「───オレにくれない?」 「…………」 「もちろん三食添い寝お前付で」 「……………………」 一世一代の、酒の勢いがなけりゃ言えない、大告白。なんだけど。 これからもずっと言い続けるけれど。 さあどうする? その、夜みたいな闇色の目にオレは入ってる? 空みたいにひろい心にオレの入る処はある? なあ、お前の一番になろうなんて思っちゃいないけど。 特別くらいにはしてくれんの? ほんの少しの間でいいから。 「……三食添い寝は嫌だよ。お前、寝相悪いし」 「じゃあ決まりな!全部終わったらこんぜ……慰安旅行ってことで!のんびりまったりしんこ……温泉!」 「……慰安旅行ってことはみんな揃ってことだよね。じゃあいいよ、行こうか、温泉」 「なんだそのあからさまにほっとした顔は」 「でもさすがに陛下と姫は無理だよね……」 「聴いてますかー」 「トロデーン領内にないかなー温泉」 「おーい」 「あとで陛下に訊いてみよう。うん。なあ温泉って国益にもなる?」 「なる。じゃあなくていやなるけど!たぶん!ってどこ行くんだお前!」 「そろそろ上がってよ。おれもそろそろ眠くなってきた……」 「いやだから最初っから一緒に入ろ───」 「何か言った?」 「いえ。早急にちゃちゃちゃっとあがりますよ。だからしまって下さい、その魔獣」 「饅頭なんか持ってないよ」 「…………」 わざとか本気か天然か計算か天然か天然だろって見せかけて意外とそーでもなかったりするんだよなってでもとか無駄に迷ってる間にあっさりと消えた背中に。 (やー、まー、いいか。とりあえず) つい伸ばした腕を戻す。 逆上せたのか冷めたのかよくわからない頭がごちゃごちゃしてるけど。 《じゃあいいよ》 忘れんなよリューイ。 《行こうか》 (オレ達はまだ何もはじめちゃいないんだからな) |
パルミドの宿屋に風呂なんてない。とかヤンガスはどこ行ったんですか?とかDQ8の世界に温泉ってあるんですか?とか言ってはいけない(笑) そんなわけで『風呂篇』───みもふたもない仮称でいらぬ誤解を振りまいただけのような気がいたしますが、いかがでしたでしょうか?とか言ってみたり(マテ) クク視点でククの一人称なんで今度は主人公視点で……とか思っちゃったりもしましたが。 ゲーム的には道化師戦後、青兄との再開前(爆)というスパンでの一幕ってことで。でもそのイベント見てしまったせいで(マルチェロイベントのフラグはまだ立ってませんよ?逢っただけ、2回程)うっかりなんか微妙な仕上がりになってしまいました。途中で兄フラグが立ったり、クク(爆)ホントは髪の毛洗ってあげるはずだったんですがね。デコピンで。終わりました。はい。修行し直します。.......2004.12.15 |