A journey of a thousand miles starts with but a single step.












「あれ、リューイは?」
「王様のところ」
「ひとりでか?」
「私もついて行こうか〜って言ったら『女の子が夜、出歩いたら危ないよ』って……危ないのはどっちかな〜ってもう、」
「ククールの奴はどうしたんでやすか?」
「大事なお姫様を迎えに行ったのよ」
「?」












-ups and downs of life.-













 パルミドという街は治安が悪い。
 犯罪者、逃亡者、世捨て人などろくでもない人間がごろごろしている。
 だから昼でも夜でも安心できない。
 先日も、さるやんごとない身分の美姫が勾引されたばかりだ。
 いろいろな幸運と悪運が重なってことなきを得たが、

(それにしたってあのバカは)

 学習能力がない。
 というか、

(やっぱり)

 全然わかってない。

「つき合うってどこへ?」
「悪い、遅れた」
「───ククール?」

 追いついたのと同時にさりげなく肩を抱いて引き寄せる。
 低くもなく高くもない声音には純粋な驚きと当惑が含まれていたが。

 「オレの連れに何か用?」

 にっこりと笑って───しかしながら好意の欠片もない冷ややかさで───目の前の男達を見据える。
 どこかで見た事があるような気もするがこの手の顔はどこにでもいる。第一、男の顔など憶える価値もない。

 だが。

(オレだってまだ何にもしてねぇのにてめぇらなんざ100年はえーんだよ!)

「じゃあ、行こうか、リューイ?」
「え?ああ、うん」

 今度オレの前にその汚い面をさらしたら只じゃおかねぇからな。と、男達には一睨みしておきながら、腕の中の───いまだに状況を把握していない───リューイに掛け値なしの笑顔を向けるとそのまま歩き出す。

 悪漢達の魔の手から救い出した事には安堵するが、もし間に合わなかったら。と思うと今更だがぞっとする。と、その想いからかリューイの肩を抱いていた手に力が入ったらしく。

「痛いよ。ってゆーかなんでこんなにひっついてるの?」
「魔除け」
「魔除け?」
「そう。どこかの誰かさんがふらふら勝手に出て行くから」
「……それっておれの事?」
「他に誰が?」
「普通、それって、女の人に言うんじゃないの?」
「───暗かったし、頭はそんなだし、服はひらひらしてるし?」
「は?」
「見えたんじゃないの?」

 天然で底抜けに鈍いが頭の回転は悪くないリューイがその台詞に足を止める。

「───それっておれが女の人に見えたった事?」
「……女の子にね」

 軽薄を装って揶揄しながら、その瞬間にふわりと立ち上った怒気に内心、肩をすくめる。
 何事にもこだわりのなさそうな、この年下の少年の唯一のコンプレックスがそれだ。
 ただでさえ年相応に見られる事が少なく、とある国の兵士だった。と言ってもにわかには信じてもらえず、加えて童顔。
 さらにこの前、ベルガラックで通り魔事件を解決した時のことがトラウマとして残ってしまったらしく。
『可愛い』と不用意に口にしようものならその瞬間に睨まれる。だけならまだしももれなく拳や足がついてくる。着慣れない衣装の時ですら危なげなく暴漢を叩きのめした技はまったく容赦がなく。
 そこでようやく、この目の前の、純朴そうな顔の、人の良さだけが取り柄のような少年が、ただ者ではないという事に気づかされるのだが。

「だいたい何で武器置いて行くんだよ」

 背中に大きな剣を背負っていればそういった勘違い野郎に遭遇する事もなかったかもしれないのに。

「……モンスターも出ないのに武器なんかいらないだろ?」
「モンスターより危険な奴らがいっぱいだから、ゼシカを表に出さなかったんだろうが」
「……そんなの、武器なんかなくてもどうにかなるよ」
「…………」
「だったらなんでさっきの奴らにも一撃必殺の『正拳突き』とか問答無用で『爆烈拳』とかそのポケットの中の刺客を解き放ってやらないんだよ!」
「人に向かって『正拳突き』とか『ライデイン』とかするなって言ったのはククールじゃないか!」
「そりゃオレにするなってことであーゆう不逞の輩にはガンガンやっちまえってこのバカ。だいたい、いまの、貞操の危機だったってことに気づいてんのかお子様!」
「あ、チーズが入ってる。トーポ食べる?」
「まてこらいますぐその魔獣をポケットにしまえ」
「ただのチーズだよ?」
「威力の強弱以前にオレに向かってやるな。と言っているんだが」
「だって不逞の輩なんでしょ?」
「オレの真摯な愛情と下世話な好奇心を一緒にするな」
「やることは同じじゃないか」
「オレはまだやってない!」


 ワン。


「…………」
「…………」
「……さっきから何をやっておるんじゃ」

 気がつけばすでに街の入り口の門を抜けていたらしく。
 野良のわりには行儀良くお座りして尻尾を振っている犬と、馬車からひょっこりと顔を出した王様が───なぜ王様が人目を忍ぶようにひっそりと馬車で寝起きしているのかは諸々の事情があるのだが───あきれたような表情で二人を見ていた。

「すみません、宿の人に夕食を分けてもらったんです。少し冷めちゃったけど、これ……」
「おお〜さすがはリューイじゃ!」
「…………」

 宿から大事そうに抱えていた袋を渡しながら、リューイが笑う。
 その様子に。

(……王様にまでジェラシーかよ)

 思わず仰いだ天には星が瞬いていて。

「どうしたの?」
「……何が?」
「めずらしく真面目な顔して」
「いい男だろ?」
「…………」

 軽く流されるかあっさり無視されるか笑顔でトドメをさされるか。
 悲しいかな、条件反射で心持ち身構えて。

(あれ?)

「───なに?」

 見下ろす視線の先にはなぜか滅多にない真剣な表情のリューイがいて。

「なんかくやしい」
「は?」
「おれもっと強くなるから」
「……いや、それ以上、強くなられると本気で教会の世話になるはめに───」
「戻ろう」
「おいだから待てって!」

(わからん。やっぱりわかんねーはこいつ。くやしいってのは女に間違われてくやしいってことか?オレが男前でジェラシーって……まさかなーでもなー)

 足早に通り過ぎた、その表情は。

「なあ、リューイ」
 
 暗かったとはいえ、確かに。

「やっぱり、お前、可愛いわ」
「!」

 腕を引き寄せ、その赤い耳元に囁けば。

「ライデイン!」

 さらに真っ赤になった顔でもはや馴染みとなった呪文を放つ。

「可愛いって言うな!」

(……いやだからそういう反応が可愛いんだって……)

 雷光に貫かれ、地に伏したまま、辛うじて残された気力のみで回復呪文を唱える。
 染み込むように四肢に流れ込んできた熱量に、起き上がって追いかけるか否かをわずかに思案して。
 
(……でもまああれだな、これで今日の『反撃ポイント』はゼロになったはずだから、戻ったら一緒に風呂入ろうぜvって言ってももう体力削られねえよな……)

 闇に煌めく星々の下でだらしなく寝転んだまま、砂の混じった風に目を閉じた。














終 わ れ。
……と、ばかりに終わります。一旦。
ちなみにくっついてません(笑)これからです。たぶん。きっと。
ちなみに『なかま』コマンドあんまりやってないんでククの口調わかりません。
すみません。勢いでした。はい。
アンケで『可愛い』と『天然』がけっこう票が入っているので“かわいい”を目指してみました。
もうしわけありません(平伏)

でもあと2本(作中のベルガラックのネタとこの後のお風呂一悶着)ネタあるんですが。
か、書いてもいいですか(;¬_¬).......2004.12.07