何もかも無くしたと思った自分の前に現れたのは。 鮮やかな、 「……」 「どうした?」 「───いいえ」 まとわりつく水滴を鬱陶しそうに払う男が、わずかに眉を寄せ問う。 雨に濡れた長い髪は重そうで、くすんだ、その名の通り灰色で、その間から覗く目も同じ。 表情も声も彼をつくるものはどこか霞んでいてそれなのに。 (どうしてこの色を) 「ぼけっとしてないでさっさと拭け」 「グレイさんこそってどうして脱ぐんですか!っていうか床に投げっぱなし!」 投げつけられたはずなのに、やわらかいタオルのせいで何か有耶無耶になってしまう。それだけならまだしも、濡れた音を立てて落ちる手袋、上着、シャツ……普段、ほとんど曝されない肌は驚く程白い。 「高い宿代を払ったんだ。これくらい別にいいだろう」 肩越しに振り返った表情はいつもと変わらない。 けれど。 「あとで怒られるの誰だと思ってるんですか」 「俺じゃあないな」 あっさりと言い捨てた声音やちらりとこちらを見た目の色が、どこか面白そうに揺れていて。 「わかってるならやめてくださいよ」 こういう子供じみた真似。 「悪いな、坊や」 反射的にわき上がった感情は複雑で面倒でけれど単純でしかし。 その感情をぶつけるべき相手はすでになく。かわりに扉の向こうから聞こえてくる水の音。 ため息とともに何かを吐き出すと、自分も濡れた服のままベッドに倒れ込む。 じわりとひろがる安堵とともにもうこのベッドは使えないな。と他人事のような思考の片隅で。 達観しているようで単に我が侭な男のことを想う。 「……」 湿ったままのベッドはおそらくというか確実に自分が寝ることになるのだろうが。 身体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。 目蓋の裏にちらつく色を追いかけて捕まえる為に。 どうせ使うベッドは一つだ。 |
あこがれのあの人は実はジャイアンだった。というオチなんですが(オチ?) というわけで『ひとりごと』de小ネタSSS再録その1。 灰兄さんを寡黙な人にするといっこも台詞を喋らないで「……」だけになってしまうので、実は普通にけっこうざっくばらんな天然オレ様系ってことにしてしまいました。アルですか?アルはよくわかりませんというかこんなアルでごめんなさい(アル篇まだやってません) いえホントはなんというかもっと初々しいはずなんですがアルグレ。むしろアルは。まだ10代だし(10代ですよね、たしか) グレイさんはたぶん、そういうアルの葛藤には気づいてません(爆)押し倒されてからようやく気づいて、しかもその時の気分でするかしないかファイナルアンサー(笑) アルグレです。 当サイトの基本アルグレはこんな感じです_| ̄|○.......2005.06.15 |