月と負け犬。 決して短くも長くもない人生で学んだ事が一つある。 それは自分が駆け引きには向かない性分だという事だ。 なので思い立ったら即行動。 そもそも十数年間無縁だったこの感情と衝動は、自覚した途端、どうにも止められなくなり。 この間、再会したバルハル族の女戦士曰く、 「まあ、若いんだし」 ───と、言う言葉に誤摩化されようと思うくらいには打算を覚えたのだが。 そもそも相手が相手なだけに。 「…………」 こうやって、隙をみて、押し倒したところで。 気が乗らなければあっさりと抜け出され、あるいは無言で殴られ、つまり相手のその時の気分次第で天国か地獄かが決まり、さらに情けないことにここ最近は連戦連敗。 その気がないならそういう貌でそういう目でそういう恰好で自分の傍にいないでほしいと思う反面、それでも一緒にいたいと思う自分は、いつも元気な魔術士曰く、 「惚れた方が負けよ」 ───と、いうことはもう重々、承知しているのだが。 そもそも相手が相手なだけに。 だからこうやって、その名の通り、不思議な色の双眸がほんのわずかな逡巡をはしらせ、ため息ととも閉じられた時は、滅多にない、今度いつあるかどうかわからない機会に他ならず。 そのまま力一杯抱きしめたい衝動をなんとか堪え、額に口づけを落とす。 今はまだ眠ったままの熱を呼び醒ます為にシャツの釦を外し、現れた、普段、曝されることのない首筋に───。 「……」 「……」 「……ラファエルさん」 「はい?」 「…………」 はい?じゃあないでしょうが。 と、隣のベッドに座ったまま、こちらを見ているオイゲンシュタットの騎士を見る。 言外に「出て行ってくれ」という意味を込めたはずなのだが、つい最近、仲間になったばかりの青年は、爽やかに微笑んで、一言。 「どうぞ。私にはおかまいなく」 誰かこの笑顔魔人に一般常識を教えてやれ。と自分のことを棚に放り投げてアルベルトが思ったかどうかは定かではないが、それでも、さすがにこの状況で先を進める勇気はなく───。 「───というか、ラファエルさん。城に帰ったらどうですか?コンスタンツさんも待ってると思いますよ?」 「いえ。サルーインを倒すまで、私は城に戻るつもりもコンスタンツに会うつもりもありません」 言っていることは正しいのにどうして場合を選ばないのだろう。 「でもせっかくの新婚さんでしょう」 「……いえ、コンスタンツが誘拐され、私が牢に入れられた時の辛さを思えば……今こうしてお互い無事でいるのですから……」 もしかして誘拐されたことを知っていたのに助けに行かなかったことを根に持っているんだろうか。 と、アルベルトが邪推しかけたところで、視界が回った。 (あ) やけに軽い乾いた音に目に映る天井。 となりでのそりと起き上がった気配に、自分があっさりと押し退けられ、逆にベッドに転がったことにようやく気づく。 ということはつまり。 「ちょっ……」 しまったこの人の“その気”はいつ何をきっかけに変わるかわかっていたはずなのに。 「寝る」 寝ると言ったら寝る。その言葉通りだ。そして今日はめずらしく、全員が(クローディアとミリアムは同室だが)個室を取ったので。 「待っ、」 慌てて追いかけながら、何がまずかったんだろうと思う。 見た目より触り心地のいい長い髪があの扉の中に消える前になんとか捕まえなければ。 惚れた方が負けとはいえ。 口の悪い盗賊曰く、 (“負け犬”だってたまには噛むんだ) 「明日も半日は移動できませんね」 そしてひとり残されたラファエルはそう呟くと、部屋を出る。 そもそも翌日の予定を決める為に、グレイの部屋に集まったはずなのだが。 愛する人に恋い焦がれるあまり、何も見えなくなるという経験は己にもあるので。 だからあの二人───正確には一途な若者の行動は微笑ましくもあり懐かしくもありだから少し、不意にからかってみたくなるのだが。 あの様子では五分五分というところか。と思いつつ二人が消えた扉の前を通り過ぎ宿を出る。 ぼんやりと浮かんだ真円の下を夜風に吹かれながら、ゆっくりと歩き出す。 愛おしい人に逢う為に。 |
……なにかこうまったりと微妙な感じになりましたが。アルグレです。アルがお年頃です(爆)エルが大人です(笑)灰兄さんはいつも通りです(え)ホントは単純にデバガメエルdeドタバタの予定だったんですが詩人さんの唄を聴きながら書いてたらこうなってしまいました。世界は不思議なことだらけです。 基本的にアルグレはアルが押し倒して灰兄さんがオッケーならそのまま。嫌ならおしまい。というわかりやすい感じです。ちなみに灰兄さんは普通です(何が)アルは若いんで。っていうと何かこうみもふたもないですが。まだ出来上がってそれほど経ってないのでアルはまだ手探りなので怖々なんですよと一応フォロー? そのうちそれなりに進展したアルグレもお届けできたらとは思っておりますので、今回はこれで勘弁してください(逃走).......2005.06.15 |