チェイス・エドモンズは目の前の光景に思考が停止した。
少なくともこれはテロ対策ユニット───CTUのオフィスには似合わない、とほんのわずかだが活動している部分が訴える。
しかしそんなチェイスの心中を知ってか知らずか、冗談を言っているとは思えない口調で隣りに立つ男が告げる。
「彼がジャック・バウニャー……君の上司にあたる男だ」
「……」
ニャー?
ニャーってなんだっていうかイタズラにしては手が込んでないかというかそんなことやる暇なんかあるのかと疑問だけが上滑りしてただ流れていくチェイスを尻目にというかこれっぽっちも眼中にない様子でデスクの上にちょこんと座り、鮮やかな毛並みの前足を動かしていた“彼”が唐突に顔を上げ───。
「クロエ!」
怒鳴った。
ニャーでもナウでもなくそれが人の名前であるということを知ったのは、相変わらず茫然自失状態から回復していないチェイスの後ろから上がったどこか不機嫌そうな声音が聞こえたからだ。
「なんですか?」
「また壊れた」
「壊れてなんかいません。あなたが今すぐその姿をやめればいいだけです」
「……」
いいですか?と言いながらPCの前、というかキーボードを肉球でバンバンと叩いていた茶虎の猫の背に立ちいくつかのキーを押すと、きた時と同じように、入り口に突っ立っているチェイスを見る事もなく部屋を出て行く。
なんなんだ?と思う間もなく視線を戻すと。
「誰だ?」
目が合った。
ような気がする。
猫と。
「チェイス・エドモンズ……あなたの欲しがってた優秀な部下ですよ」
「そうか。俺はジャック・バウニャー」
「……よろしくお願いします」
ニャー。
ニャーだ。
ここまでくればさすがのチェイスもこれが冗談でもなんでもなく現実だと認めざるを得なかった。
が。
相変わらず。
バンバンと。
キーボードを叩く前足───金色の毛並みの間から覗く淡いピンク色の肉球やらデスクの端から落ちた縞模様の尻尾がイライラとした風に揺れる様を見ながら───。
「俺がやります」
画面の映し出された「saaaaaasaaaaaasss」の文字列を消しつつ、勢い良く顔を上げた猫───おそらく嘘偽りなく上司の青い目がキラキラと輝いているのを見て。
このまま全部なかった事にして部屋から出るか、パタリと嬉しそうに尻尾でデスクを叩いた───おそらく猫云々というより彼の性格的な問題でデスクワークの苦手な上司と一蓮托生となるか。
後ろで聞こえたわざとらしい溜息がすべてを物語っているような気がしたが、聞かなかったことにした。
2008.01.01
そんなわけでニャーです。
猫耳とかそんなんじゃなくて『猫』そのものですが、人の姿もとれます勿論。
しかしバウニャーさんは猫の方が楽らしく大概『猫』で過ごしておりますが、中身はあのままです。
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