『恋する男達』べガス篇その1
ラスベガスCSIラボの現場捜査員───性別:男───が同僚を飲みに誘う時、その理由は主に、ひとつだ。
つまり。
「聞いてくれよ!今日主任がさー……」
「……」
彼らの上司───性別:男───CSI夜間シフト主任、ギル・グリッソムだ。
その輝かしい経歴と科学捜査に対する姿勢と信念は尊敬に値するが、その分、彼の理想(あるいは彼にとってはそれはただ当たり前のことに過ぎないのかもしれないが)は高く、仕事には厳しい。しかもできて当たり前。と思っているフシがあり、彼から労いの言葉はかけられた事はあっても、純粋に褒められる事は滅多になく───。
ラボ内で己の専門分野で職務を全うするだけの自分たちでさえ、彼の目や言葉や思考は───見られていると思うだけでプレッシャーを感じる事があるのに、同じ現場で彼と同じ物を見ている彼らにとってそれは比ではないらしく。
仕事意識もプライドも負けられない、あるいは負けたくないと思っていたとしても───。
極々単純に。
いつも素直に己の感情を表さない上司からお褒めの言葉を───天使のような(誰がそんな事を言ったのかはわからないがというか知りたくもないが)微笑みとともに告げられたなら───。
「だから俺が───」
「あーはいはい」
普段、給料日後ですらなかなか財布の紐を緩めない人間ですらこういうことになる。
揃いも揃って大して酒に強くもないのに誰かを飲みに誘ってその喜びを分かち合う───というより自慢する。
というかぶっちゃけ恋人のノロケでも聞かされた方がマシじゃないかと思うような話をされる。
しかも延々と。
だが自慢話(褒められたetc)の時はまだいい。
飲みに誘われる理由が彼らの上司であるのなら、逆もまた然り───というよりはむしろ“逆”の方が多い。
そういう時はどんよりとした空気を纏いうつうつとした声音で愚痴る───というか自分の至らなさを嘆き反省し最後はやはり主任はすごいに落ち着くのだが───男を慰めなければならない───義務も義理もないのだが、図体のでかい男がせいいっぱい身体を丸めて落ち込んでいる様は、よく言って父親とケンカしてそれを後悔している息子か、悪く言って飼い主に叱られた犬のようでどうにも放っておけず……。
「───って聞いてるのか!」
「勿論」
「よし。で、俺はこういったわけよ───」
「……」
これって貧乏くじなんじゃないかな。
と、思いつつ、背に腹はかえられず。
金の切れ目が縁の切れ目───とまでは言わないが。
彼らの敬愛する上司は自分の上司でもあり。
そしてその上司が彼なりに彼らを大事にしている事も知っており。
だから。
愛し愛され───けれどそれを素直に本人には言えない同僚達に。
「かんぱい」
2007.12.08
『天使のような〜』は角川文庫のCSIの小説(ダブルなんちゃら)でほんとに書いてありました。
C:がんばれべガスっこたち
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