『恋する男達』べガス篇その2
「……俺って嫌われてんのかなー……」
「……」
とあるバーのカウンターにへばりついてげっそりと溜息をついた男の名前はニック・ストークス。
普段は気のいい大らかな人当たりのよい好漢なのだが、一度落ち込むと鬱陶しいことこの上ない。
彼に───というか“彼ら”というのが彼ら以外の共通の認識だが───飲みに誘われる時は“自慢”か“愚痴”かの二択なのだが、酔いつぶれるまで延々と続くその話を適当に聞き流していればその晩の飲食代はタダになるとなれば、多少の打算は働く。
とは思ってもその落ち込みようは飼い主に叱られた大型犬のようで、どうにも放っておけない。
しかもその理由が───。
「なんでいっつも最悪のタイミングで出てくんのかなぁ……」
とほほー。と情けない声がふわふわと漂ってのろのろと落ちる。
「お前もそう思ったことないー?なーんか気がつくとすぐ後ろにいたりするんだよなー、」
主任。
「……」
主任───つまり我らがラスベガス警察CSIラボ深夜番の責任者である。
名はギル・グリッソム。ヒゲと麦わら帽子の似合う恰幅の良い───勿論、男だ。
それが目下、今となりでちびちびと酒を舐める男の恋煩い───と言っても過言ではないのではないかと思われる───の相手だ。
恋煩い───と、揶揄られる程、彼ら───CSIのメンバー(主に野郎どもというのがまた……)は直属の上司に惚れ込んでいる。否、尊敬している。
自分にも他人にも厳しい反面、時折みせる無防備さが堪らない……とは今ここにはいない褐色の貴公子(と誰が言ったかは知らないがというか別にどうでもいいが)の弁だが。
その彼の存在もニックにとってはまた微妙なようで。同年代であることでお互いライバルとして切磋琢磨しつつも、一歩二歩、遅れをとっていると感じているようでもあり。
(……そんなことないと思うけどなぁ)
“駄目だ”
鋭く。
“これは他言無用だ”
いつにもまして真剣な。
「───大丈夫だと思うよ」
「……んー何が?」
「だから主任」
「……」
「エクリー見てたらわかるじゃん」
「……」
「あの人自分が思ってるほど器用じゃないし」
「……いやでも最近、前程毛嫌いしてないんだけど」
「大人になったんじゃないの───ようやく」
「……」
「……それに、」
「……なに?」
あの時。
彼が彼を助けるために、否、今も───。
「───ん、やめた」
「なんだよ」
「秘密───主任とのね」
「はぁ!?」
なんだよそれ!っていうかなにそれ!秘密って秘密って───いつの間にそんなに仲良くなってんの!!
と、途端に元気になった───周りの客にはいい迷惑だが───ニックを笑顔で宥める。
やっぱりどんより落ち込んでいるよりは、こうして空回りでも───その原因は自分だが───元気な方がいい。
そのために主任は命を掛けたのだから。
(まあそれも“当然のことだ”って言うんだろうけど……)
想い想われ───素直な部下と素直じゃない上司を思いつつ。
「はいはい落ち着いてー」
「これが落ち着いていられるかっての!抜け駆けかよっていうかお前もかよ!」
「いやそれ誤解。誤解だよニック?ねぇ、聞いてる?」
「ウォリックは結婚したくせに相変わらず主任とコースターデートだしグレッグはグレッグでノーテンキな声で交換日記しましょ〜とか言いやがるしッ───」
「ニック?おーい、戻ってきてーねーニックー?」
……こうして。
べガスの夜は何事もなかったかのように更けていく。
「───どうしました?」
「……いや、何か悪寒が」
「エクリーじゃないですかー。主任、また書類出し忘れたんでしょー……キャサリンが怒ってましたよー……今度こそ……ええっと、なんて言ってたかなぁ……」
「グレッグ」
「はい?」
「今、我々がするべきことは何か、わかるな?」
「勿論です」
「よし、いい子だ」
「だから今度ランチ奢ってくれるだけでいいですよ」
2007.12.11
『褐色の貴公子』云々は某WさんでのWのキャッチコピー。
C:負けるな心優しいホットガイ
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