「……」

 よく言えば冷静、わるく言えば無表情。果たしてその実態は実は何も考えていないだけ。ということもよくある同僚が、その身を僅かに硬直させたことに気づいたダニーとゾーイが素早く視線を交わす。
 公私とも弱味らしい弱味のない同僚の、というか仕事以外の趣味なんぞあるんだろうかと思わないでもない彼の小さな、けれど決定的な違和感に、普段眠っている好奇心がうずうずと動き出す。
 しかし相手はトム・クィン。
 冗談が冗談には聞こえなかったり、冗談かと思えば本気だったりと、決してその本心を他人に伺わせることのない男の口を割らせるのは並大抵のことではない。
 けれどそこはスパイ。
 相手もスパイだが、ここでこの謎を放置していてはスパイとしての技量を問われる。と建前を声高に胸の内で宣言し、2人はしっかりと頷く。
 まあ要するに現れるんだか現れないんだかわからないターゲットの存在に飽きてきたのだが。
 それこそMI-5の人間としてまずいんじゃないの?と至極尤もなツッコミもあるが、まあ、リーダー自身が挙動不審だし。その原因を解決してターゲットに集中する為にも疑問は解消しておくべきよね。と、ゾーイはさり気なさを装いつつ隣りに立つトムを見上げた。

「ねえ、犬嫌いなの?」
「……」
「……」

 スパイって何だ。
 さりげないってどこが。

 しかしそのスパイにらしからぬ超豪速球ストレートは、なぜかトム・クィンにはよく当たる。

「むかし、」
「うん」
「子供の頃、隣りの家で飼われていた犬に押し倒された」
「……うん」
「なぜかその犬は僕を見かける度に突進してきて、」
「…………う、うん」
「4、5歳の僕はなす術もなく転び続けて」
「……」
「まあ怪我らしい怪我もなかったんだが」
「……」
「他の犬も似たような感じで」
「───え?」
「種族問わず何故かむやみやたらに寄ってくるから、」
「……」

 小さいのも小さいので踏みそうで怖いし、大きいのは大きいのでやっぱり突進してくるし今でも油断してると倒されそうになるし。

「嫌いではないんだが、」
「……ちょっと構えちゃう感じ?」
「まあそんなところだ」
「……」
「好かれすぎってのも困りもんなのねー」
「……」

 いつのまにかのほほんムードが漂いつつある公園の片隅で、もう、誰でもいいから出て来いよ犬以外。っていうかこんな騒ぎになってんのに出てくんのかターゲット。
 と、柵の向こうのわんわん大合唱に背を向け、ダニーはげっそりとため息をついた。



2008.11.05
トムトムわんこに異様に好かれてたら萌えるよね。というある意味理不尽な妄想。
てか3人揃ってだべってる時点でターゲット出てこないよね!

C:わん


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