innocent world
「メキシコで何があったんですか?」
「───あ?」
音もなく現れた男の無表情に、どうしてこの男は無駄にでかい図体をしているのに不意をつくのがうまいんだろうと、どうでもいいことを考えたデビッドの空白にウェスはさらに言葉を継ぐ。
「“死んだかと思う”程のことをされたんでしょう。何をしたんです」
何故そこでこっちから“何かをした”と思うんだ?ただの科学者だぞ?
そりゃナイフで脅されたり殴られたりしたがそれだけだ。それも別にはじめてではないし、結局こうして五体満足でいるんだ。何が問題だ?
と、口に出す程デビッドは馬鹿ではない。
どういうわけか、この男はデビッドのやることなすことに一々文句を言わないと気が済まないらしく、不用意な───ウェスがそう思いそうな───発言で余計な時間───自覚しろだの無防備過ぎるだのケンカを売るな買うな知らない人間にはついていくな知ってる人間にも用心しろだの女子供か俺は!───をとられるのは、一分一秒を争う今、無駄だ。というか男のヒステリーにつき合う義理も義務もない(相手が好みの女性なら一考の価値はあるが)
「何もされてないし何もしてないし何もなかった」
「それを信じろと?」
子供だってもう少しマシなことを言う。
というか色の薄い青い目は本人が思ってる以上に、感情や考えが透けて見える。本人が嘘をついている。という自覚がなくても、隠し事や言わなくてもいいだろうと思ってることはわかるのだ。ということを本人だけが知らない。
「信じようが信じまいが、俺が今お前の目の前にいることが事実だ」
そしてこういうことを無意識に言うのだから非常に困る。
デビッド・サンドストロム博士。
NorBACの主任科学者で分子生物学の第一人者で自他ともに認める天才。
だがその価値が、立場が通用しない世界もある。
彼の絶対的な価値観や志は相対的で流動的な世界では意味をなさない。
むしろ邪魔でしかないことの方が多いのだ。
彼の信じるきれいでまっとうな世界などどこにもない。
「いいですか、ここにあなたを護る騎士も番犬も雇う余裕なんてないんです」
それなのに。
「はっ───……お前のその首輪の鎖は誰が持ってるんだ?リドルマイヤーか?それとも他のご主人様か?一体何人のご主人様にその尻尾を振ってるんだ?」
嘲るような口調も声音もいっそ清々しい程の悪意を孕んで放たれる。
ある種の傲慢さと致命的な弱さを曝しておきながら、攻撃を仕掛けるのは彼にとってそれが最大の防御だからだ。
そしてそれは相手が誰であれ変わらない。
「誰が主人かはっきりさせようか、ウェス」
見下ろすかたちでかち合う視線は決して逸らされない。
青い目に映る愚か者にいっそ慈悲すら感じさせる笑みを浮かべ。
傲岸に言い放つ。
「跪け」
それが唯一正しいことであるとでもいうように。
「私の血も肉も命も、この心も貴方のものです、マイ・ロード。この手もこの足もこの舌もすべて貴方のものだ」
傅き、その手を取って口付けでもしてやろうか。と思いつつ、ウェスはその距離を縮めることも離すこともなく淡々と告げる。
天才の皮を被った困った男の矜持を満足させるのも仕事の一つだ。
これで彼の機嫌がなおって仕事の効率があがるのなら、自分のプライドなど些細なことだ。
それに。
「ならコーヒー。あと他の皆を呼べ10分後に会議室だ」
「了解しました」
彼を素直にさせる方法なら他にもある。
2009.02.08
主従プレイなら夜二人っきりでやってくれないかな。
とかそーゆー話(え)
S4#01と#02の予告見ただけで書いちゃったある意味フライング小ネタss。

・top
・novel
・home