「こーちゃんこーちゃんこーちゃん!」
「……ああッ?」
せっかく気持ちよく微睡んでところを、むやみやたらに元気だけはいい声に叩き起こされ、不機嫌どころか気の弱い人間ならわけもなく謝り倒して許しを請いたくなるような凶悪な視線と声音で皆守が唸る。
机に伏せて眠っていた(勿論授業中も)姿勢から、心底、面倒くさそうに起き上がった皆守が目にしたのは、思っていた通りの九龍の満面の笑みと思っていた以上の暴挙だった。
んちゅう。
「……」
下手な漫画ならそういう擬音がつきそうな。
「───……はー、よーやくこーちゃんとチューできたーv」
公衆の面前で同性にキスを仕掛けた男は、表情だけは爽やかに、そう宣った。
「ひでーよこーちゃん。今日俺たち、朝から一回もチューしてないんだぞ!それなのにこーちゃんぐーすか幸せそうに寝ちゃってさー俺寂しくて死んじゃいそうだったんだからなー……」
そしてどこか寂しそうに微笑むと、まだ状況についていけないというか、クラスメートの前でいきなりベロチューをかまされて放心状態の皆守にぎゅううっと抱きつく。机越しでしかも皆守は座ったままだから何か不自然だが、二人の前に、否、九龍の前に机ごときは障害にならない。
ならないが。
「───九龍、」
低い。それこそ人でも神でも呪い殺せそうな声が虚ろに響く。
そのおどろおどろしさに、見たくもない男同士の濃厚なキスシーン何ぞを真っ昼間から見ざるを得なかった3-Cの生徒達は声もなく恐れ戦いたが、当の本人はぱぁっと顔を輝かせむしろ嬉しげに笑う。
「え?何、もしかして足りなかった?」
見目はいいが曲がりなりにも高校生男子のする仕草としては、小首をかしげ頬を染めるというのはどうかと思うのだが、どういうわけか違和感がないことが逆に恐ろしい。
しかもその前にはもっと恐ろしい者がいるのだ。
そしてその恐ろしい者は、いつの間にか取り出した銀色のパイプを銜え、ある意味正しい用途でアロマを吹かすと、徐に、蹴った。
思う存分。
力の限り。
踏みつけた。
「イタッ!って何するのさ!」
「それはこっちの台詞だ!」
「何がだよ!」
「あれほど人前で馬鹿な真似はするなと何度言ったらわかるんだお前は!その頭は飾りか!つーか飾っておくほどの価値もねぇ!今すぐ捨ててしまえ!!」
「わーなんだよそれ!こーちゃんだってこの顔好きだって言ったじゃないかー!」
「喋らず騒がず余計なことを言わずやらず直立不動で黙って立って息を止め尚かつ半径5キロメートルくらい離れた所にある分にはな!」
「息止めたら死んじゃうだろ!」
「死んでしまえ」
「!!───こ、こーちゃんのばかー!いけずー!アロマー!カレー!エロー!!さこつー!だるだるー!!」
「ちょっと待て!あることないこと叫びながら走るな駄犬!」
どこの幼稚園児だ。と突っ込む間もなく、泣きながら教室を飛び出していった九龍が、「でも好きなんだよこんちくしょーこうたろうのばかーゆうべも(カレークエスト)あれだけがんばったのにー」と事情を知らない者がきけば誤解を招く青年の主張を叫びつつ走り去っていくのを、さすがにこれ以上、恥を上塗りすることができないと思ったのか、保護者、もとい飼い主───……ともあれ一部誤解ではない真実が暴露されはじめる前にと皆守が回収に走る。
行き着く先はどうせ屋上だろうが。
どちらにしろ、この無駄な騒がしさも、教室に犬が紛れ込んだ。と思えばそう変わらないか。と、3年C組一同が納得したところで。
できれば飼い主はしっかり躾をして欲しい。という思いが通じたのか否か、昼休みを過ぎ6時限目の授業の前に戻ってきた犬もとい葉佩九龍が、めずらしく憔悴しているのを見て、皆守に、屋上の主以外にトップブリーダーという称号が密かに与えられたのだが、勿論、本人達には口が裂けても言えない3年C組だった。
2006.02.28
こんな皆主でもいいですか?
【clap】
・top
・novel
・home