「お帰りなさいませ、旦那様」
「……なんの真似だ」
「新妻ごっこ」
「……」
制服に白いフリル付きのエプロンをつけ、楚々とした態度でお辞儀をしてみせた男がはにかむように頬を染める。
めずらしく皆守を待たず(おかげで保健室で寝過ごしかけカウンセラーにどつかれた)弾丸のように(目撃者談)校舎から飛び出ていったと思えばこれか。
と目の前の男を蹴り飛ばしてそのむこうにあるベッドに倒れ込みたい衝動を堪え、まったく効果のないアロマパイプに歯を立てる。
自室の扉を開ける前から感じていた不穏な気配に警鐘を鳴らす己の感覚を信じてさっさとマミーズか隣室(この目の前の男の部屋だが)に逃げ込んでいればよかったと思うが後悔先に立たず。
悪夢は目が覚めればそれで終わりだが。
「───で?」
「で?って張り合いないなーこーちゃん。ここはただいまのベロチューとかはぐとかその先とか……」
「そのエプロンどうした?」
「え?これリカちゃんにつくってもらったんだvかわいいでしょ?───ってこーちゃんなにそんないきなりマニアックなプ」
「───九龍」
「ななななに?」
「目、瞑れ」
やだこーちゃんだいたーん。と、恥じらいつつも嬉々として近づいてくる男から視線を外さず後ろ手でドアのノブに手をかける。
「離婚届だ」
「!!」
馬鹿正直に目を瞑った男の胸ぐらを掴んで開けたドアの外に放り出す。
バランスを崩した体をちょうどいいとばかりに蹴り倒して扉を閉めて鍵をかける。
「ちょ、こーちゃん!」
「男の新妻なんぞいらねぇ」
「そっち?問題はそっちなの!?」
「つーかうざいきもい似合ってるのが信じられねぇ有り得ねぇ!」
「ねーそれって褒められてんの貶されてんの?」
「うるせぇ!今度勝手に人の部屋で阿呆な真似曝してみろ!お前の部屋の鍵を朱堂の変態に売ってやるからな!」
「いやーーーそれだけはいやーーー!」
と学生服にエプロン姿の葉佩が皆守の部屋の扉に泣いて縋って土下座してマミーズでカレー一週間分奢ることでどうにかゆるしてもらったらしいのだが。
運悪くこのやり取りを薄くはないが厚くもない壁に阻まれることもなく聴いてしまった面子によれば「痴話喧嘩」以外のなにものでもなかったという。
2006.06.24
「離婚届」はイコール「蹴り」
【花嫁修業はバッチリ】
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