「なにそれ!」
「───はい?」
例によって例のごとく閑古鳥が住み着いているらしい事務所の扉を開けた瞬間、上がった声に、ライドウは動きを止める。
「はい?じゃないよ!何その傷!」
「……」
言われて己の顔にうっすらと走る赤い線に指を這わせる。
命に関わるような傷でもないので放っておいたのだが、それをこの、いつもは半分以上眠っているような上司が目敏く気づいたらしく。
放っておいても明日には治りますよ。と、目の前の上司を安心させる為だけに口を開こうとした矢先、
「勿体ない!せっかくのきれいな顔なのに!」
「……」
「傷とか残ったらどーすんの!」
どうもこうも。
「きれい、ですか?」
「うん。好きだよ」
「───顔が?」
「うん」
「……顔だけが?」
本気かわざとかというかこの人俺の気持ち知ってるんだよな。と、身の内から沸き上がってきた凶暴というよりは開き直りに近い感情を、出すか出すまいかと、僅かに残っている理性が葛藤する沈黙をどうとったのか。
わざわざ席を立ってライドウの前まで来た、男が、あっけらかんと宣う。
「いやでもぶさいくよりは男前な方がいいでしょ?」
と、おどけた調子で己を指差す年上の男の顔を眺めながら、
「……そうですね」
己の顔の皮一枚ついてはどうでもよかったが、近づけた顔が避けられなかったのでそのまま目の前の赤い皮膚を吸った。
2006.07.02
突発攻ライドウ。十代は真剣で三十代がのらりくらりと悪足掻きしてするのが若様と所長の関係です。
【大正妖都のバカップル】
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