名前


「九龍」

 そう呼ばれるのが好きだった。
 その声が好きだった。
 その声でそう呼ばれるのが好きだった。

 低く。
 どこか乾いた。
 そして甘い。
 
 ずっとずっと聞いていたかった。
 ずっとずっと、そう呼ばれたかった。

 けれど。

「───なあ、」

 低い、冷めた熱を孕んだ声が落ちる。
 いつもは茫洋とした双眸が鋼の輪郭を纏って眇められる。

「これは、」

《九龍》

 そう呼ばれるのが好きだった。
 その声が好きだった。

 俺の名を呼ぶ時のこいつの貌が好きだった。 

「どういうことだ?」 

《九龍》

 もうその名で呼ばれることは───。





























「……黙ってないで、なんとか言ったらどうなんだ、九ちゃん」
「いやあのその、」
「どうしてお前の部屋に俺のカレーがあるんだ?」
「だだだだからそれはッ、」
「なあ、九ちゃん」
「はぃい!」
「……怒らないから言ってみな?」
「すみませんごめんなさい甲太郎の寝顔を堪能しつつついでに手が勝手に動いてあら不思議『レトルトカレー』ゲットトレジャー」
「……」
「……」
「……」
「……」
「なあ、九ちゃん」
「な、なんでしょうか!」


「───地獄に堕ちろ」


「は、ちょ、まっ、───怒らないって言ったのに!!!」
「怒ってねぇ!蹴ってんだよ!逃げるな!当たらねぇだろう!!」
「当たったら死にます!」
「いいじゃねぇかたまには。一回くらいは死んでみな?」
「うぎゃーーーーー!!!」


 この後、《宝探し屋》の死亡が確認されたかどうかはまた別の話。



2006.05.25
「ほら九ちゃん、唐辛子だぞ」
「…………で、できれば他のものを……」
「仕様がない奴だな。───酢と小麦粉とゼラチンと大腿骨と醤油と塩と植物油、どれがいい?」

【HP回復+5】


・top
・novel
・home