残り香
寒がりのくせに薄着な恋人は部屋に入ってきた途端眉を潜め、イスに引っ掛けられていた人の上着を羽織るとベッドに座り込む。
お互いの部屋に我が物顔で居座るのはそれこそお互い様なので、今さらそれをどうこう言うつもりはないが。
「寒い?」
「……別に」
「ごめんねーもうちょっと待っててねー」
「……」
俺は別に寒くても暑くてもそれなりに平気だから、1人でいる時に暖房はほとんど使わない。
だから甲太郎にとってこの部屋の温度は外と変わらないくらいの体感なんじゃないかなぁと思いつつ、意識的に手元の集中する。
とっとと終わらせて部屋を暖めて甲太郎に触るにはそれしかない。
というわけでそそくさと繊細かつ大胆に作業を進め記録的にな速さでそれを完成させベッドに向き直る。
「こーたろう?」
「……なんだよ」
甲太郎は寝てもいなくてアロマも吸ってなくて。
で。
で。
で。
(こーゆうのをロマンっていうんだっけ?)
元々痩せてるとは思ってたけど(いや実際細いっていうか薄いっていうか)使い古した俺の上着の間からわずかに覗く肌の白さに。
「……なんでもない」
何かいたたまれなくなってエアコンのスイッチを入れベッドに這い上がる。
触れた素足の冷たさや眠りもせず俺を待っていてくれたことに、ただ愛おしさが込み上げてきて、額にそっと唇を落とす。
(……うわっ)
邪魔な上着をベッドの下に落として、こめかみから耳朶を辿り、首筋に鼻をすり寄せたところでふっと、嗅ぎ慣れた匂いが鼻を掠める。
花の香りでも石鹸の残り香でもない。
「……なんだよ」
硝煙、の。
「な、なんでもない……」
2007.01.21
終わってしまえい。とばかりに終わります。ヘタレ葉佩さんです。
【ヘタレでもいい】
・top
・novel
・home