クロネコアロマの亀急便。


(あ〜あ……)

 いつものようにショップで武器を物色してアイテムを補充して件の亀急便がくるのを待つ。
 
(もー一週間だぜー)

《宝探し屋》であることは今更かえられないしかえる気もないがそれにしても。
 一週間が“まだ”ではなく“もう”なあたりに救い難さも感じるが。

(逢いたいもんは逢いたいよなー)

 と海の向こうの極東の島国で日々カレー(バイト先がレストランなのだ)な相棒権恋人のことを想う。
 というか考えない日はないのだが実際。
 癖のあるやわらかい髪。どこか茫洋とした瞳。気だるげな仕草に低く甘い声を発する口元には銀色のパイプ。
 そしてそこから漂う花の───。

(あーこんな感じの、)

「亀急便だ」

 ゲシ。
 
 とだるそうな声とともに踏みつけられ九龍は床に這わされる。

 あれいつもの爽やか兄ちゃんとか時々来る爺ちゃんとかじゃない?
 と、自分を踏みつける(しかも微妙な力加減でじわじわと)相手が誰かに唐突に気づいて───。

「こ、甲太郎!?」
「亀急便だ」
「ななななんで!?」
「バイトだ」
「バイト!?」

 驚きと嬉しさに半ばパニックに陥っている九龍をよそに、亀急便のバイト───皆守はひとり落ち着いたまま、アロマを吹かす。
 バイトとしてその態度はどうよ?とどうでもいいことを思いつつ、がばっと起き上がった九龍に皆守は荷物を落とすと、あっさりと踵を返し、

「じゃあな」

 とそのまま出て行こうとする。
 
「待った!」
「……なんだよ」

 それを夢幻とうとう幻覚と思い込みかけた九龍が反射的に掴んだ足は確かに現実のものでこれが夢でもなんでもないとわかった途端、九龍の頭はもう一つのことしか考えられなくなった。

「俺に会いにきたんじゃないのかよ!」
「バイトだって言ったろ。───どこぞのトロ職人だかトラハンターだかが人んちのカレーをごっそり根こそぎ持っていきやがってな。あれは滅多に手に入らない貴重なカレーだっていうのに……」
「……」

 まずい。しまった。怒ってる。と、わざとらしく吐き出された溜息を見て反射的に正座する。
 だってお前のかわりが欲しかったんだもん。などと正直に告白すれば「語尾に“もん”なんぞつけるな」と一蹴(文字通り)されることは目に見えている。
 見えているが。
 正直。
 ぶっちゃけ。
 
 それどころではない。

 目の前に愛しの、今の今まで逢いたいと想っていた皆守がいて、触れられる距離にいて、それなのに。

(どどどどーしたら!)

 どうもこうも理性も本能も押し倒せと叫んでいる。
 それなのに。

「そういうわけで俺はバイト中だ。お前は俺のかわりのカレーでも食ってせいぜい仕事に励め」

 微笑というには些か剣呑すぎる笑みを浮かべる皆守に、九龍は唐突に思い立ってまだ立ち上げたままのPCに向き直る。

(あった!)

 一番下までスクロールして見つけた項目は───。

(全財産ってなんだよ!)

 と反射的に突っ込みつつも躊躇いもなく金額を打ち込みキーを押す。
 
「───甲太郎」
「……なんだよ」

 それを最後まで確認することもなく九龍は皆守の名を呼ぶ。
 途端に皆守の携帯が鳴り出して───。

「……まだバイト中?」
「……───今終った」



2006.03.23
お金では買えない価値がある。でも買えるものは買う(え)

【clap】


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