カウントダウンアニバーサリーイン
「甲太郎12は暇か?」
「店は定休日だから暇といえば暇だが……」
「え、あいつ帰ってこないのか?」
「……さあな」
「さあなってお前だってその日」
お前の誕生日じゃん。
と従兄弟との電話でそういえばと思い出してみた。
ついでに去年のその日も思い出した。
できれば思い出したくなったのだが。
「……ともあれあいつからの連絡は一切ないからな」
「心配とかなんねーの」
「いまさらだろ」
「あーそう。じゃあもし万が一九龍が帰ってこなかったら飯食い行こうぜ」
「別に構わないが───飯を食うだけだよな?」
「よしじゃあそういうことで」
「いやまてまさか余計なこと考えてな、」
「まあ楽しみにしてろよ」
「ちょっ、ま、───……切りやがった」
年上の従兄弟は見た目はそれなりだが中身が奇天烈でこの間も猫耳のついたパーカーの上下なんぞというわけのわからないものをよこしやがった前歴がある(それは九龍との共同開発?らしいが。というか見た目の阿呆さに反して着心地はいいので時々部屋着になってるが)
何か新宿というか東京というかアジアというか世界中のそこかしこに下僕だか信者だか仲間だかがいるらしく、迂闊なことを言うと本当にやりかねない。下手をするとこの歳になっても誕生日会とかを言い兼ねないところがある。というかあれはやる。きっとやる。絶対やる。結婚も子供もいないのに家庭や家族に夢見がちなところのあるらしく(俺や龍麻の家庭環境を思えばわからないわけでもないが)そういうイベントは何か全身全霊でやりたがる。ということに気づいたのは高校を卒業し再会してからで。
そのうち一緒に住もうとか言い出しかねない雰囲気もあるのだが、まあ、それもいいか。と思いはじめてる自分もいて。
(それもこれもあの馬鹿のせいだ)
バイトのシフトを記入するために買ったカレンダーにはいまのところ、本当に俺のバイトのある日しか印がない。
暇さえあればメールや電話を入れてくる男はこのところ沈黙を守っている。
便りのないのは元気な証拠。と言いたいところだが、一度、気になるとどうにもこうにも落ち着かない。
どうでもいいことは一々報告してくるくせに、肝心のことはギリギリになるまで、あるいは済んでからしか連絡を入れないのはあいつの悪い癖で。
だからといってこちらから連絡を入れるのも何か業腹で。
(誕生日、ねぇ……)
誕生日。と言われて思い出すのは去年のことだ。
それまではただ過ぎ去っていたその日に大騒ぎしたのは今はこの場にはいない男で。
日本を出て(目が覚めたら空港だった)世界中を飛び回って(というより連れ回されて)気がつけばどこぞの遺跡の中でどこかで見たことのあるような化け物達と戦って倒したと思ったら出来の悪いゲームのように出口に出るまで追い掛け回されて。
それで助かったと思ったら今度は九龍がのしかかってきてキスされた。まあそれは百歩譲ってよしとしても舌まで入れてきやがったんだあの馬鹿はこっちはまだ呼吸も整ってないっていうのに殺す気かこの馬鹿犬と思った瞬間殴り飛ばしてた。
殴ったこっちが痛かったからやっぱり蹴った方がいいなと思いながら、その場で説教したのは致し方あるまい。殴ったくらいじゃわからないのだから。
それでも正座して(これはあいつが自主的にやった)大きな体を精一杯縮めてそれなりに反省してるらしい(というよりは待機状態の犬みたいだったが)九龍を見ているうちに、まあ、なんというか、……絆されたというか気の迷いというか。
あのまま朽ち果てていくだけだと思っていた俺にもこんな馬鹿みたいなおまけがあるとは一体誰が予想できたっていうんだ。
あの日あの場所でゼロで終わるはずのカウントがそこからまた始まるなんて。
それも世界のどこかの遺跡の前の乾いた空気の中でしかも阿呆みたいにきれいな夕日の染まりながら正座で説教を喰らってる《宝探し屋》と一緒にいるなんて。
ほんの数ヶ月前までは日本でささやかながらも働き先も見つけてさあこれからっていう時に拉致られて世界を引き摺り回されて遺跡に潜って化け物と戦わされて助かったと思ったら同性に押し倒されてキスされて。
それでもそれが嫌じゃないどころか。
ああそうだ。
そうさ認めてやる。
俺はこいつが───。
《……ありえねぇ》
《え?何が??》
《───こんなの、忘れられるわけねぇだろう》
《こ、甲太郎さん?》
《お前のせいで一生忘れられない誕生日だ》
《───こ、甲太郎ッ》
「……」
そこから先のことは思い出したくないのだが。
無駄に大人しいからおかしいとは思ったんだが。
こいつが真面目な貌をしている時はろくなことを考えてない。ということを忘れたわけではないのだが。
はじめてというわけでもないのでいまさらそれについてどうこう言いはしないがそれにしても汚れくらい落とさせろって……いやまあそのあれだ。
色々あったんだ。無駄に。
そういうわけで次に正気に戻った時、となりで九龍が阿呆な顔して「俺なんでここにいるの?」なんてほざきやがった瞬間、蹴り飛ばしたのは仕方がないだろう。
昨日というか昨晩というか未明というかつまり寝る前までのあれやこれやをこの馬鹿はきれいさっぱり忘れていたというかおぼえていないとか抜かしやがってそれは百歩譲ってよしとして俺の一世一代の……えーあー……まあ、これで二度とあんな恥ずかしい台詞は口に出さないと誓ったのだが。
(生きてるにしろ死にかけてるにしろ連絡の一つや二つ入れろっていうんだ)
そうしたら。
うっかり誓いを破ってもいいという気分になるかもしれないだろ。
(まあ帰ってこなかったらタダ飯食えるけど)
一食、うまくいけば二食分浮くかもしれないと思いつつ、カレンダーを見る。
カウントはゼロから1、そしてようやく2になる。
2006.04.09
アロ誕前皆守さん独り言Ver.
【clap】
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