目が覚めて一番最初に見た甲太郎は笑顔だった。
しかもとびっきりだ。なので俺は朝から幸せいっぱいでつられてへられりとだらしなく相好を崩して、頭のどこかが気をつけろっていう鐘を鳴らしてるのも、今の俺にとっては教会の鐘と同じで、けぶるような朝の光の中、微笑みを浮かべる甲太郎の顔にゆっくりと近づける───……。
ウニ。
うに?というか何か、かたい、けれど薄っぺらい物にぶつかって、
「───これはなんだ?」
低い声がして目を開ければ、笑顔のまま甲太郎が極彩色の派手な箱を俺の顔に押しつけてるところで。
なんだってそりゃコ……お前の従兄弟からの誕生日プレゼントだよと言う間もなく蹴り飛ばされた。
(あーこれ去年と一緒じゃねーか)
と、気づくのが遅すぎた今年の甲太郎の誕生日の翌日。
来年こそは!
と、誓いながら俺は畳に沈んだ。
アニバーサリーハッピーリセット?
そんな感じで俺は今洗い物をしている。
俺たちにとっては遅い朝食、家主にとっては昼食である純和風の食卓を囲みながら、表面だけは穏やかに過ぎていく。
結局、二日酔いまでには到らなかった甲太郎はそれでも機嫌があまりよろしくない。むしろ悪い。原因はあれだ。
龍麻さんからのプレゼントだ。
どうやら俺は疲れに任せてそれを握りしめたまま眠ってしまったらしく。
違う誤解だ信じてくれと平身低頭、寝癖もよだれの跡もそのままで、ジャンピング土下座をしたものの、当の本人、諸悪の根源は前日(つまり俺にあれを渡したその足で)にここを出て行っていたらしく、その現場を目撃していないと至極最もなことを主張する家主(疑わしいことこの上ないのだが)を問いつめるわけにもいかず、俺の冤罪は晴らされることなく現在に至る。
(というか俺、おはようのチューもしてませんよ)
じゃぶじゃぶと両手を泡だらけにして(家主に見つかったら怒られるだろうが)重大な事実を思い出す。
そーだそーだ。チューどころか会話もしてませんよ(一方的に説教はされたけど)いいのかそれで俺は一体何の為に帰ってきたんだーと蛇口を捻る。
しかも俺、ウーロンも飲んでないしカレーも食べてない(これ重要)
「俺のカレー……」
「誰のカレーだって?」
「うわっ……びっくりしたー」
「そりゃこっちの台詞だ」
そんなに隙だらけでいいのか《宝探し屋》なんて、皮肉げに口元を緩めて甲太郎が笑う。よかった、さっきよりは機嫌がよさそうだ。と思ってると横から手がのびてきて、洗った食器を拭きはじめて。
「いつ帰ってきたんだよ」
「……昨晩」
「……」
「いやだって寝てるし。起こすのもあれかなー……なんて、」
「……」
沈黙が。
痛いんじゃなくて心地いいなんて。
微かに漂う花の香りに、ああ俺、帰ってきたんだなーなんて思ってると。
「カレー」
「へ?」
「アパートにある」
「!」
「食うか?」
「食べる!」
「ば、わかったからひっつくな!濡れる!!」
「じゃあじゃあ!」
「───ッ!!」
「……誕生日おめでとう」
「……おう」
「でもってこっちは、」
「!」
おはようのチュー。
2006.04.13
全三種といいつつ結果的に4種でした(え)
【clap】
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