『10 minutes another』クロウVer.
「……」
皆守がうっかり熱を出して前後不覚に陥り、剰え、クラスメート他第三者の目の前で横抱きで保健室まで運ばれた後、寮の私室までテイクアウトされてしまったのが数時間前。
眠ったからか薬のおかげか。
起き上がれるようにはなったものの、ベッドから出るのは億劫で、というか何故かいる九狼(兄)と九龍(弟)の───無駄に慈愛と期待に満ちた視線に曝されたまま、皆守はまだ力のない声で呟いた。
「なんだこれは」
「うさぎりんご」
「うさリンゴ」
「……」
ユニゾンで───こういう時は双子だと思う声が、ひとつは淡々と、ひとつは嬉しそうにこたえる。
うさ。
うさぎ。
言われてみればそう見えなくもない。
「……もしかして甲太郎、」
「……たぶん、はじめて見た」
「…………」
優しかったことしか覚えてないな両親は物心つく頃に他界し、引き取られた家の家族にもそれなりに大事にされていた記憶はあるが、両者とも仕事が忙しかったこともあるが何より、自分より小さな妹がいて───。
その当時は体が弱かったので、体調でも崩そうものならかかりつけの医者に診てもらうことはできたが、時々様子を見に来るのは家政婦くらいで。
昼も夜もどこかしんとした家の中でふと目が覚めた時の、なんともいえない気持ちを、いつのまにか諦めることをおぼえて。
祖父に見よう見まねとはいえ武術もどきを教えてもらうようになってからは、それなりに丈夫になったらしく、それからは手のかからない子供になったのだが。
「甲太郎」
「───なんだ?」
赤い皮のところが耳なんだろうか。と思っていると、九龍の声が聴こえ顔を上げる───がすぐに半眼になる。
「あーん」
「……」
目の前に差し出されたフォークに突き刺さった哀れなうさぎと、やはり無駄に嬉しそうな笑顔の九龍を見る。
「何の真似だ」
「大丈夫。これから甲太郎が風邪でぶっ倒れても俺がそばにいるから!」
「───それで悪化したら俺を呼べ」
「なんだよそれは」
「そのままの意味だよ」
「……」
一瞬にして不穏な気配を漂わせはじめた双子に、そっとため息をついて、フォークに突き刺さっているリンゴを齧る。
「こここ甲太郎!?」
「……」
「───なんだよ。食ったらまずかったのか?」
適度な酸味と甘みに、単純に美味いなと思っていると、九龍がいつにもまして素っ頓狂な声を上げる。それだけなら放っておくのだが、その隣りで九狼も僅かに目を見張っているのを視界の隅に収め、すこしだけ居心地の悪い思いがそのまま声になる。
「そそそそーじゃなくて!甲太郎熱あるんじゃ!?」
「……だからあるんだよ」
何故か慌てふためく九龍からフォークを取り上げ、頭の欠けたうさぎを齧る。
九龍が小煩いのはいつものことで、その度にどつき倒してきたのだが、今はその余力もない。
だから躾はその身内にまかせることにして、りんごを食べることに集中する。
兄が弟にさり気なくトドメをさしているのを、意識の片隅でとらえながら、熱の籠った体をゆっくりと倒して横になる。
なにやら無駄にエキサイトしはじめた双子の喧噪を肌で感じなら目を瞑る。
たまにはこういうのも悪くない。
そう思いながら皆守は久しぶりに心地よい眠りに落ちた。
その数日後。
熱の下がった皆守が悪気のないクラスメートから事の顛末を聞き出し、諸悪の根源、九狼を追い掛け回すついでに、同罪とみなされた九龍が蹴り倒されたのはまた別の話。
2006.02.03
デフォバッキーの10minの(書いてない)九狼Ver.のさらにアフター。
仲良さげな双子を書いたのはじめてですよ(笑)
【clap】
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