『最後から2番目の真実』


 自分はまた間違ったんだな。と、息をするのさえ困難な口付けを受けながら皆守は目を瞑る。
 押しつけられたコンクリートの冷たさと、髪を絡めとる指の強さに、噛みつくように貪り嬲る男の憤りを感じて。

《───なんで》

 自分を冷たい壁に叩き付けた強い力とは対照的に、こぼれ落ちた声は。

《なんでだよ!》

 泣きそうだと思った時には無意識に腕がのびそうになったのをむりやり、脇に戻して、自分の肩に額を押しつけて微かに震える九龍の背中に触れたいと想う衝動を手を握りしめる事でどうにかやり過ごす。

 これ以上嘘をつきたくなかったから。
 だから。

《九狼と寝た?》

 と普段の軽薄さを潜め、思い詰めたような貌で問う九龍に頷いた。

 いつも真っ直ぐな九龍だったから。
 そんな九龍にこれ以上嘘はつきたくなかった。
 たとえ。

《黙っててくれたら俺は───ッ》

 それが九龍の望んだこたえではなかったとしても。
 
 重ねられた嘘の中にほんの少し混じっていたその小さな想いの欠片が、思っていた以上に弱いところを引っ掻いて、その痛みに強さに、嗤いたくなる。

 こうなることは最初からわかっていたはずなのに。
 遠くない未来に訪れる結末を自分はわかっていたはずなのに。
 近い将来訪れる終焉のその間際まで。

(ただ)

「……九狼はやさしかった?」

(熱が)

「───やさしさなんかいらねぇだろ?」

(欲しかっただけ)

 酸欠で朦朧としたまま溢れた声はみっともなく擦れ、欲に塗れた熱がそのまま落ちる。 
 慣れた身体は簡単にひらく。
 簡単に堕ちる。

「そーだね」

 いっそ無邪気なほど、けれど雄の貌をして、九龍が笑う。

「じゃあ俺はうんとやさしくする」

 いままでと同じように。
 けれど決定的に違う何かを孕んだまま。
 九龍は笑う。

「だから俺だけを見て俺だけを感じて俺だけにして」
 
 シャツの下に滑り込んできた手が、肌を這うように撫で上げ腰を辿り、彷徨うように蠢いた指が熱を絡めとる。

「好きだよ甲太郎」
「───ッ」

 誰かを想うこと願うこと求めること。

「俺が一番甲太郎を好きだよ」

 誰かを想うことを願うことを求めることをこたえることを───。

「……ッ、お前達は、どう、してッ」

 俺なんかを。と続くはずの声は、入り込んできた舌に塞がれる。
 どこもかしこもおかしなくらい熱くなってきた身体とは裏腹に、揺さぶられる意識の片隅で、キスの仕方が九狼と似ていると言ったら、この男は俺を殺してくれるだろうかとぼんやりと滲む視界を閉ざす。
 目蓋の裏に残った真昼の光に自分は一体何をやっているんだろうと思いながら。
 
「好きだよ」
 
 目の前に転がり落ちてきた罰はとんでもなく甘い死に至る毒だった。



2006.02.05
『10minクロVer.』の次がいきなりこれですみません。でも『クロウ』は元々昼ドラ路線なのです。

【clap】


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