来訪
いつも唐突に訪れる男だから、執事からその来訪を告げられた時も阿門はさほど驚かなかった。
時間は日付を跨いですぐ。鍵を渡してあるので、家主がいようがいまいがふらりと現れてはまたいつのまにか消えているのもめずらしいことではなく。
気がつけばただ眠る為に訪れる男に部屋が与えられ、その時だけ香る花の残り香があの男の存在をうっすらと示していることが多くなったとはいえ。
皆守が門の外で立っていた。という言葉にほんの少し、眉を潜める。
勝手に来て勝手に帰る猫のような男だ。
それが───。
「───悪ぃ」
「……いや」
雨の中、ただ黙って外に居た皆守を屋敷に入れそのまま浴室まで連れていった千貫の話よりは、幾分、血の通った顔色で、それでもやはりどこか悄然とした表情で皆守がぽつりと呟く。
わずかに湿り気を帯びた髪と見慣れた制服姿に、はじめて違和感を抱く。
いつもなら。否。以前なら。
「せっかく風呂まで使わせてもらったのになんだが……」
「帰るのか?」
「……ああ」
自分で訊いておきながら「帰る」という言葉に少なからず、動揺していることに驚く。
「……これも、」
と言って皆守は、苦笑する。
せっかく乾かしてもらったのにな。と笑う貌は───。
「傘なら持っていけ」
「ビニ傘なんて庶民的なもん、お前んちにねぇだろ?」
「───以前、お前が置いていったものがある」
だからこのままでいい。と踵を返し扉に手をかけた皆守に咄嗟に声をかけたのは。
「悪い」
けれど何かを拒む強さで皆守は言い、そして、聞き取れるかどうかぎりぎりの弱さで「助かる」と呟いて。
「───もう“寒く”はないのか?」
その声に、皆守は扉が開いた隙間に半身を滑り込ませたまま、笑った。
なにもかもわかっているというように。
なにもかもあきらめたとでもいうように。
諦観というにはあまりにも───。
「寒いに決まってるだろ」
冬なんだぜ。
「……」
戯れ言のように続けられた言葉よりも、そう言った皆守の貌が泣きそうに見えたことの方が───。
2006.02.08
なんだと言うのだ坊ちゃま。
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