『大型犬と仔猫の恋愛を見守る会』


 という会があるらしい。
 あくまでも噂だが。

「おい九ちゃん」
「うわっ……後ろから膝裏蹴るのは反則だぞ甲太郎」
「転んでもねぇくせに何言ってんだ」
「一般論だ」
「誰がお前以外にやるか」
「……」
「それよりカレーパン」
「なんだ、もう腹が減ったのか?」
「人がせっかく寝てるのに起こしにきた馬鹿のせいで朝から食ってねぇんだよ」
「そうは言ってもな甲太郎、普通、学生は、起きたい時に起きるんじゃなくて、授業に間に合うように起きるんだと思うんだが」
「…………ないならいい。じゃあな」
「まて甲太郎!ないとは言ってないぞ!」
「───なんだよ、もったいつけんなよ」
「…………ほら、カレーパンだぞ」
「───てめぇ」

 190cmはある長身の葉佩が、腕をのばしてカレーパン掲げてしまえば、平均身長とはいえ、175cmの皆守が、手を伸ばしたくらいで届く高さではない。
 低く唸った皆守に、めずらしく、悪童めいた表情で葉佩が朗らかに笑う。

「どうする?甲太郎」
「……」

 それを見て皆守がさらに表情を険しくする。
 己の動体視力と反射神経を持ってすれば奪取できないわけではないのだが。
 この男の思惑通りに事を運ぶのも何やら業腹だが。
 心持ち体勢を低くし、狙いをつけるように半歩引く。
 そして───。

「え、うわっ、ま、待て甲太郎!」
「どうせこっちにも入れてんだろ」
「いやだから!」

 きちんととめられた制服のボタンを外し、前を開くと、中からぼたぼたとカレーパンが何個も落ちてきて。

「じゃあな九ちゃん」

 それらをすべて拾い上げ、満足げな笑みを見せると、半ば呆然とする葉佩とその一部始終を見ざるを得なかった他生徒達の間を抜けて皆守はどこか機嫌が良さそうに廊下を歩いていく。
 そんな皆守の背中を、葉佩はまだ片手にカレーパンを持ったまま見送って。

「───俺がやったら蹴るのに自分はいいのか?」 

 ぽつりと落ちた低い声に、微妙な静寂が漂う。
 何か聞いてはならないことを聞いてしまったような気がするのは何故だ。と、本人以外が無駄に内心葛藤する中、当事者は苦笑しつつも───どこか甘ったるい笑みを一瞬だけ閃かせると、皆守の後を追うように歩き出す。

「……」

 その広い背中を呆然と見送って。
『大型犬と仔猫の恋愛を見守る会』とやらの存在を確信した生徒がそれなりにいたらしい、これもまた最近の天香學園の日常だった。



2006.01.29
これが『大型犬と仔猫の恋愛を見守る会』の元ネタでございました……。

【clap】


・top
・novel
・home