《人》でいるのは面倒だと甲太郎は思う。
《猫》のままならそのままで何も言わないのに、《人》になった途端、服を着ろと煩い。甲太郎にしてみれば《人》の時も《猫》の時もかわらないから、そのことについて不平をもらせば、お前はこのカレー(九龍は料理の腕だけはいいからそれなりに美味い)と5個で298のレトルトカレーが同じだと言うのか。と言われ、ああと納得してしまって以来、《人》の時は服を着るようにしている。
それに《人》の時は寝る場所も少ない。
いつも寝ている座布団は枕にしかならず、暖を求めて《人》の姿で布団に潜り込めば(寝ぼけていたのだ)、九龍がなにかわけのわからない難癖をつけて嫌がるし(それなのに《猫》だと嫌がらないのだあの男)、陽気に誘われて縁側で寝ていると邪魔だと言われ散々だ。
さらに《人》の姿で外に出ればなぜかご近所(と言っても車で20分はかかるスーパーだが)の奥さん連中に囲まれ(九龍が)ついでのように質問攻めにあい(とりあえず親戚の従兄弟ということにしたらしい)運が悪いと“夕薙先生”とやらにも遭遇する(同族だからこそ胡散臭い)
ペットショップとやらに行けば「今度は猫の甲太郎ちゃんも一緒に連れてきて下さいね」と無理を言う(それもこれも俺だ。いくらなんでも分身はできない)
俺だって好き好んで《人》になったりしてるわけじゃあない。と言ってもおそらく、九龍にはわからないと思うので(その仕組みを説明するのも面倒くさい)いまのところ、《猫》と《人》の間をふらふらしている。
けれどまるでいいところのない《人》でも一つくらいはなにかよかったな。と思うところもあるわけで。
「退け」
「わっ」
相変わらず、猫だらけの雑誌を相好を崩しながら読みふけっている、九龍の背中を足で蹴る。
そのままソファから蹴り落とす。
何かが潰れたようなうめき声が聞こえたが、甲太郎の幸せの前には些細な問題だ。
《猫》でも《人》でも甲太郎はこのソファが好きだった。
けれど《猫》のままだと、いくら前足で叩いても爪を立てても一向に構わずむしろ「じゃあ一緒に」と無駄に甘ったるい声(実は甲太郎はそういう時の九龍の声は苦手だ)で望んでもないのに、ソファとは寝心地もそれこそ天と地ほどの差がある九龍の膝の上に抱えられ逃げられなくなってしまう。
そのうち面倒になって結局寝てしまうことが多いのだが、できれば、ソファでひとりで眠りたい。というのが甲太郎の嘘偽りない本音だ。
「……眠いんなら猫になればいいのに」
「───何か言ったか?」
「いいえ」
念願のソファにひとりで寝転がってご満悦の甲太郎に、どこか恨みがましい声と視線を九龍が送ってきたが、低い声と半眼で恫喝すれば、とりあえず引き下がる。
その姿に、同族の子供のことを思い出して、知らずに口元が緩んだ。
何かに似ていると思っていたがあれだ。
「お前、《犬》みたいだな」
「えぇ!?」
お前にだけは言われたくないよ!と実年齢のわりには大人げない《人間》の主張を聞き流しながら、甲太郎は目を閉じる。
あれは《人》になっても俺より小さいからな。と本人が聞けばそれこそ烈火の如く怒り狂うだろう台詞を胸中で呟いて、とりあえず、《人》でいるのも悪くないか。と思いながら睡魔に身を委ねた。
2006.02.08
ネコパンチネコキックが効かないことが不満だった甲太郎君(推定人間年齢に換算して10代後半)の実力行使劇場(あれ?)
【clap】
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