dependence


 ない。
 と気づいた瞬間、息が出来なくなった。

「───ッ、ぁ、」

 ラベンダー。
 精神安定剤。
 ただそれだけなのに。
 
 笑いたいのに声が出ない。
 耳を塞ぎたくなるほどうるさい音が自分の心臓の音だと気づいて、嗤うかわりに喉が引きつったような音をたてる。

 まるで。
 必死に。
 いっそ。
 このまま。

 生き(死に)たい、と、
  
 もがく力もなくずるずると崩れる身体が床に落ちる。冷たいと感じることもなく、ふっときえかかる意識の、酷い耳鳴りのむこうで、カチリ。と何かの音が聴こえて───。

「甲太郎!?」

 真っ暗な部屋の冷たい床の上で踞って動けない皆守に誰かの手がかかる。

 誰か?
 鍵のかかっているはずの他人の部屋をまるで自分のテリトリーとでもいうように気軽に侵入してくる人間は一人しかいない。
 
「ちょ、何やってってどどどどーしたら!?」

 抱き起こした皆守の、夜目にもわかるほどの白さと異常な呼吸と汗に、どんな時でも───命懸けの“夜遊び”の時でも顔色を変えない男の、慌てふためく顔をどうにか視認して。

「いい、」
「って何がッ!?」
「このまま、」
「でででもっ」
「いい、か・ら……」

 外の気配をまとわりつかせたままの男の胸に額を押しつけ、目を瞑る。
 砂と土と水と、かすかな硝煙の匂い。
 それだけで。

「……ほんとに大丈夫?」

 背中にまわされた手がゆっくりと、落ち着かせるように動いて、僅かに震えを残す身体をぎゅっと抱きしめられる。
 ただそれだけで。

「……ああ」
「ああああああもう吃驚したー……ってちょっと本気で大丈夫なんお前?なんかヤバい病気でももってんじゃないの?有り得ないよっていうか俺の繊細な心臓がいまだにバクバクいってるよ洒落にならないよというわけで明日は俺と一緒にデート決定……って、ルイ先生呼ぶ?」
「いらない」
「いやでもお前まだ顔色悪いよかまちも真っ青だよ」
「もう平気だ」
「まー……お前が言うなら今回はそういうことでいいよ。っていうかアロマは?」
「……いらない」
「へぇーめずらしいこともあるもんだねーってことは明日は雨?それとも雪?って寝るのかよお前この格好で!!」

 ちょっと甲太郎さーん?
 と、いつものようにふざけた声が少しだけ慌てるのを聞きながら。
 
「というか俺はどうしたら!せめて着替えさせてっていうかこのまま寝たら風邪引くって甲太郎!」

 ラベンダーの香りの中ですら訪れなかった穏やかな眠りの中に落ちていった。



2006.05.29
『dependence/依存』
たまには壊れ系アロマも書いてみようキャンペーン

【壊れ系も無問題】


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