こちらに。
と、通された部屋は広くもなければ狭くもなかったが、それでも、大の男が6人───皆守と皆守をこの部屋まで連れてきた男と部屋の中に4人───いればそれなりに厚苦しい。
皆守には一生縁がないだろうと思われた贅を尽くした造りの室内に燦々と降り注ぐ光の中で、豪奢なソファに重苦しい───悲痛なと言っても過言ではないほど生真面目な───いっそこの無駄に豪華な雰囲気が不釣り合いな空気が流れ……いや淀んでいる。
むしろ重く沈んだ光の差さない地下室にでも連れてこられた方が落ち着いたかもしれない。とどうでもいいことをぼんやりと考えつつ、さすがにこの雰囲気でアロマは吸えないだろうと内心溜息をつきながら、ようやく目の前の現実を受け入れることにした。
「……なあ、俺は魔物退治に呼ばれたんだよな?」
「いかにも」
「……で、あんたたちが依頼人だよな?」
「そうだ」
「じゃあその猫はなんだよ?」
「……」
相変わらず人を人とも思わないような態度と声音だが、意外にも誰もそれに難色を示すでもなく訊かれたことにただ答えてきた男達がぴたりと止まった。
「───猫。だと?」
「そうだよ。あんたらがぎゅうぎゅうになって座ってるってのに、その猫だけソファ独占してんじゃねえか?誰かの趣味か?」
「───貴殿には、猫に見えるのか?」
「……何言ってんだよ。見えるも何も真っ黒なチビ猫じゃねーか。首輪してねーけど野良じゃあここには入れないからあんたらの誰かが飼ってんだろ?」
貴殿って誰だよ。と思いつつも口は思ったことをそのまましゃべる。
むしろ部屋に入った瞬間から、真っ正面のソファに一匹だけちょこんと座っていた仔猫と、テーブルを挟んで向かい合うように男4人、2人掛けのソファにそれぞれぎゅうぎゅうになって座っている密度の対比に、失敗したかな。と今回もつまらないガセネタに振り回されるのかとげっそりしたことまで思い出して、無意識にポケットの中の金属の感触をなぞる。
「皆守殿」
「あ?」
「こ、こここのね、猫を一緒に連れていってはもらえないだろうか?」
「───は?」
「私からもお願いする」
「皆守殿の仕事の邪魔にはなりませぬ」
「是非ともお願いしたい」
「……それは別にかまわないが」
「そ、そうか!」
「それはありがたい」
「いやこれで我々は───」
にわかに活気づいた男達の真剣さに些か気後れしつつも、ここまで熱心に進められるともしやこれは精霊の類いなのかと納得する。
ただの猫なら邪魔の一言に尽きるが、面倒なことが大嫌いな皆守にとって、自分が楽ができるならそれに越したことはない。
というわけであっさりと承諾すると、それこそ涙ぐまんばかりに男達が騒ぎ出し、なんだこのオッサン達とさすがに眉を潜めた皆守の足元で、
にゃあ。
仔猫が鳴いた。
いつのまにソファからここまできたのか気づかなかったが、その黒い毛玉をつまんで目の前にもってくる。
嫌がるかと思ったが、真っ黒な小さな顔に嵌められた琥珀の瞳が細められ、ピンク色の舌が皆守の鼻先を掠める。触れてもいないのにゴロゴロとなる喉に、どうやらご機嫌らしいと判断すると、皆守はそのまま腕の中におさめる。
言葉も理解していそうだが、猫の足に自分のペースをあわせる気はさらさらないので抱えていった方が楽だ。
そう判断しただけなのだが───そんな皆守と腕の中の仔猫を見る男達の視線はいささか胡乱で───。
「これ、持っていっていいんだよな?」
「───も、勿論」
「じゃ後はこっちで勝手にやっていいんだよな?」
「お、お任せします」
「……後何か言い残したことは?つーかもしかして俺にあった用ってこの猫のことだったのか?」
「は、はい」
「よろしくお願いします」
ひとつひとつ。
疑問を解消しつつも何かそれが少しも解消されていないような気になりつつも、本来なら皆守のような人間が、直接関ることがない身分の高い男達の珍しくも腰の低いというか一生懸命というか焦っているような態度に、ふっと走った予感を怠惰で一蹴すると、そのまま踵を返す。
先ほどと同じ男がまた先を歩き、その背中をなんとはなしに眺めつつ───。
まあこれで当分の食い扶持は稼げるな。
と気楽に考えて……。
「───誰だお前?」
「俺?“クロウ”よろしく」
「……よろしくじゃねーよなんでここにいるんだよ」
「なんでってお前が連れてきたんじゃないか」
「俺に男を連れ込む趣味はない」
「猫ならあるの?」
「───……は?」
「俺。猫。さっきまで。というわけでこれからよろしく───甲太郎」
───しまったことを死ぬほど後悔したのはまた別の話。
2006.09.10
というわけでパラレルファンタジー。
今回の目標。
たまにはキレイカッコいい葉佩さんを書いてみよう。
たまにはアロマさんを散々振り回す魔性の葉佩さんを書いてみよう。
たまにはアロマさんを思う存分振り回してやろう。
【clap】
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