むかしむかし。
 あるところに、ひとりの《宝探し屋》がいました。
 名前は『葉佩九龍』まず初対面の人には読んでもらえない、しかも画数の多い七面倒な名前です。
 しかしそのことにやさぐれることもなくすくすくと育った九龍は何故かあっさりと道を踏み外し《宝探し屋》となりました。
 理由は面倒くさい大河も真っ青な長さになるので割愛しますが、ともあれ、九龍は今、とある遺跡の、おそらく最深部であろう部屋の中にいました。

「……」
「……誰だお前?」
 
 そして部屋の中には男が一人いました。
 と言っても年の頃は九龍とあまり変わらないように見えるのですが、少年というには些か、そぐわない太々しさ───いえ、オーラを背負っているように見えました。
 しかし九龍にオーラの色を見るとか後ろに誰がいるとかそういうことがわかる能力は一切持ち合わせていなかったので気になったのはまずその頭でした。
 くねくねです。
 うねうねです。
 ああこれがワカメ天パというのだなーと眺めながら、何故、そんな彼が、王様が座るような椅子に座っているのだろうと首を傾げました。
 これで白タイツにカボチャパンツの王子様スタイル(偏見)だったらまだ、わかりやすかったのですが、青年は極々普通の黒の上下に身を包み、口には金属のパイプらしきものを銜えています。胡散臭いことこの上ないです。
 唯一、その豪奢な椅子に相応しいものと言えば、年齢にそぐわない偉そうな態度、いえ、堂々とした、というか、行儀悪く組んだ足の上に無造作に置かれている、金色に輝く王冠なのですが。

「───おい」
「え、あ、俺、葉佩九龍。18歳。181cmの62kgで視力は両方とも2.0で趣味は───」
「……」
「ええっと、《宝探し屋》です」
「《宝探し屋》?」

 何やらあまり機嫌がよろしくなさそうな青年の、声音の低さにビビ……驚いた九龍は、一生懸命、自分が何者かを喋ります。
 そうです。九龍は《宝探し屋》です。秘宝を探し、手に入れる為には───この青年と闘うこともあるかもしれないのです。
 九龍は《宝探し屋》になってまだ日が浅いですが、今までの九死に一生スペシャル経験から、遺跡の最深部には、秘宝を守る墓守がいることを───そしてこの青年がその墓守である可能性に、ようやく気づいたのです。
 
「ということは、お前はこれを探しにきたのか?」
「う、うん……」
「そうか……」

 膝の上の王冠を片手で持ち上げ、青年は九龍に問います。
 誤摩化すこともできたのでしょうが、結局、九龍は素直に頷きました。
 
「じゃあ───やるよ」

 H.A.N.Tの警告音とそういえばアナログ切ってなかったな。とその時になって思い出す某コントローラーの振動に備え、ぎゅっと目を瞑った九龍に何か固い物がぶつかります。

「は?え、ちょ───」

 何事かと目を開けるとそれは足ではなく───青年が持っていた、あの王冠でした。

「今度はお前がそれの持ち主だ」

 そして青年は何事もなかったかのように、相変わらずパイプを銜えたまま部屋を出て行こうとします。
 九龍には何がなんだか分かりません。

「ちょ、待って!」
「……なんだよ」

 九龍は王冠を持っていない方の手で無意識に青年の腕を掴みました。

「どこ行くの?」
「───は?」
「俺も一緒に行く」
「……」

 九龍は《宝探し屋》です。
 まだ誰も目にしたことのない神秘や手に入れたことのない秘宝を探し出すのが仕事です。
 そういう意味でならこの王冠は───間違いなく《秘宝》の一つです。
 しかし。

「……それはどうするんだよ」
「……ええっと、欲しい?」
「お前は?」
「───君と一緒にいられるなら別にいらない」
「……」

 その九龍の言葉に青年がカチリ。とパイプを噛んだ音がしました。
 九龍の持っている王冠と、九龍に掴まれている腕を交互に見て、青年は溜息を噛み砕くような声で、こう、言いました。

「なら、そいつを捨てられるか?」

 それがあれば富も名声もあるいは権力も思いのままだ。
 世界を手にする機会をお前は捨てるのか?
 それさえあれば、世界はお前の思うがままだ。
 それでも。

 お前はそれを捨てられるのか?

「うん」

 九龍は頷きました。

「そんなのより、君と一緒にいられる方がずっとずっといい」

 そう言って九龍はにっこりと笑いました。
 どうやら九龍にとっての《秘宝》はこの目の前で、何とも言い難い表情をしている青年のようでした。

※※※


「───というわけで、こちら、俺のバディです」
「皆守甲太郎だ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……とーちゃんかーちゃん?」
「……父上母上と呼びなさいと何度言ったらわかるんだ九龍」
「いやでも今さらそんなの無理だよっていうかどーしたの顔色悪いよ?」
「悪いに決まってるだろうこの馬鹿息子というか───皆守?」
「あ。うん。名前がないっていうから……名前は俺がつけたんだけど」
「……」
「……とーちゃん?」
「───お前、どこから拾ってきた」
「拾ってきたなんて人聞きの悪い───ほら、紫色の花の咲いてる丘の遺跡……」
「お前はあそこは立ち入り禁止区域だってわかってて入ったのか!」
「いやだって遺跡でお宝ゲットレするのが《宝探し屋》だし!それにそんなに危ないような感じはしなかったけど……」
「───お前、本当に、運だけで生きてきたんだな……」
「……なんでそんなしみじみ言うの」
「……あそこに入った連中は、今まで、誰一人、還ってきた者はいないんだぞ……」
「え?そーなの!?」
「……今流行の自動作成ダンジョンだからな」
「へー」
「……皆守君、ひとつだけ、聞いてもいいかな?」
「なんだ」
「君は王家の、阿門家の“皆守”なのか?」



2006.10.23
『むかしむかし』その2アロマの嫁入り葉佩家の人々に続く?
とか言ってみたりなー

【またかーー!!】


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