仔犬のワルツ


「こーた!」

 最初は思い出の中の大切なものをみつけた嬉しさから。

「こーた」

 次は日常の何気ない喜びと、

「誰がこーただ」
「こーたはこーたじゃん」
「……」

 素直になれない自分の性格から。

「こーたー」

 そして。

「……犬じゃねぇんだぞ」
「愛情表現の一種だ」
「小さいくせに威張るな」
「小さいのは関係ない」 
「俺の名前は“甲太郎”だ」
「う」
「───ほら、言えよ」
「こ、こーたろう」
「“甲太郎”」
「……甲太郎」
「言えるじゃねぇか」
「わ、ガキ扱いすんな!」
「弟なんだろう?」
「生まれたのが少し早かったからって今さら兄貴面すんな!」

 言語障害でもあるのかと思ってたぜ。と皆守は笑いながら───めずらしく素直な笑みを浮かべたまま、九龍の髪を大きな手でかき回す。
 歳の差はほとんどないが身長差は如何ともしがたくだからといって強くでられないのは。

「絶対!絶対追い抜いてやるからな!覚悟しろよこーた!」
「はいはい」

 びしぃ。っとアロマを吹かす皆守を指差して宣言する。
 少しだけ顔が赤い理由を悟られるわけにはいかない。

“こーた”

 最初は思い出の中の大切なものをみつけた嬉しさから。
 次は日常の何気ない喜びと、素直になれない自分の性格から。
 そして今は───。



2006.04.25
弟が無駄にドキドキしていればいいかと。そして兄が全く気づいてないなと。

【下克上可】


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