屋上の支配者とはいえぶっちゃけ今の季節、寒いものは寒い。
だからといってあたたかい、しかもベッドで寝ようものなら、胡散臭い保険医にそこはかとなく嫌みを言われ気がつけば追い出されてしまう。
以前ならその小言も気にならなかったのだが最近は何故か頭より先に体が動いてしまう。
まさか知らぬ間に何かしら施されたのではなかろうか。と邪推めいたことをおぼえないでもなかったが。
とりあえず。
「……」
すぴー。だか。くぴー。だか。
制服の開いた襟から顔だけ出してぬくぬくと眠っている小動物の体温はちょうどいい。
事の起こりは朝。
とは言ってもそれは皆守とってであって他の生徒達はすでに登校した後だったのだが、寮のエントランスを出て開口一番。
「さ む い」
と、体を震わせたのは、皆守の肩に乗っかっている、白い毛皮に覆われた間抜けな顔をした海豹で。
「……お前のその天然毛皮はなんなんだ?」
「さむいのですー!」
耳元でじたじたされればさすがの皆守もいつもの投げツッコミ(文字通り投げつける)も発動せず、かわりに。
「じゃあこうしちゃえば?」
と、同じく重役出勤の緋勇が、慣れた手つきで皆守の制服のボタンを胸の辺りまで止めると、問答無用で白い毛玉を中に入れる。
「ちょ、」
なにしがやる。と憤る前に反射的に手で制服を押さえつけてしまったのが敗因だったのか、そのおかげで白い毛玉は地面に落ちることもなく、もこもこと姿勢を変え。
「いりゅーじょん!」
「何がだ!」
「可愛いぞ」
「誰がだ!」
「九龍に決まってるじゃないか」
「───ッ」
開いた襟の間から顔を出した毛玉の頭を撫でつつ、似非爽やかに言い放った男は、声を詰まらせた皆守のくせ毛に指を絡めると「勿論お前もかわいいぞ」と一撃必殺スマイル(八千穂命名)を喰らわせてトドメを刺すと颯爽と歩き出して。
「……こーちゃんかお赤いよ?」
「うるさい」
胸元からきょとんとした顔でこちらを見上げる毛玉(名を葉佩九龍という)の頭を制服の中に押し入れつつ皆守もようやく校舎へと足を向けたわけだが。
さすがにそのまま教室に入る勇気は皆守にはなく、授業中なのをいいことに人目も憚らず屋上へと辿り着き、心行くまで惰眠を貪っているのだが。
(これが《宝探し屋》ってのは何の冗談だ?)
制服の中でぬくぬく気持ち良さそうに眠っているのは夜は遺跡に潜っているからだ。
この小さな体のバイタリティは眠い怠いを繰り返すだけの皆守とは雲泥の差で。
だからこそよく食べよく眠るのだ。と言ったのは、こちらは何があろうと飄々とした態度を崩さない年上の転校生で。
いまでは種族の垣根を軽く飛び越え仲の良い兄弟のようだ。と言ったのは誰だったか。
(ま、俺には関係ないがな)
と嘯く皆守自身、その兄弟の母親のようだ。と囁かれていることをどこぞの棚の上に放り投げ、購買のビニール袋からカレーパンを出す。
そういえば、こんなに静かな食事は久しぶりじゃないのか?とここ最近のあれやこれを思い出して、ひっそりとため息をつく。
ともあれ誰にも邪魔されず至福の時を過ごせるならそれだけで充分だ。と心持ち、おだやかな表情で、袋を破りいざ、と口を開けたところで。
「カレーパン!」
「……」
「こーちゃんこーちゃんカレーパン!」
「……」
「愛と勇気だけが友達なのです!」
それはアンコの方じゃないのか?と皆守が思ったかどうかはさておき、いまのいままでぐーすかぴーと寝ていた白い毛玉がにわかに騒がしくなる。
手なのか前足なのか鰭なのかをぱたつかせ右、左、右と顔を振って、
「こーたろうさん」
お い し そ う 。
と、上を向いたまま、眼を細めた白い毛玉は無言で訴える。
訴える。
訴える。
訴える。
あ、涎。
「……ほれ」
「きゃーーー」
きらきらと無駄に輝くその貌に耐えきれなくなり、皆守は二個目のカレーパンを白い毛玉に押しつける。
「こーちゃんだいすきいただきます」
「あーはいはい」
ぺりぺりと器用に袋を破りうにうにと開いた口からほこほこと香ばしいカレーパンを半分出してはむ。と食べる。
「うまー……」
「当然だ」
一心不乱にカレーパンに食らいつく白い毛玉を見下ろしながら、皆守もようやくカレーパンを食べる。
しばらく無言が続き。
ぺろりとカレーパン一つを平らげた白い毛玉がよじよじと襟の間から這い出てきて。
「……」
何事かと俯いた皆守の顎に鼻先を押しつける。
「こーちゃんこーちゃんだいすき」
にま。と笑う白い毛玉と見詰め合うこと数秒。
「うぎゃ」
「……おかわりはなしだ」
「えー!」
やっぱりカレーパン目当てだったか。とまだ少し残っていたカレーパンを食べ終え皆守は「けちー」とぶーたれる毛玉の頭を服の中に押し込む。
「黙ってろカイロ」
2006.11.27
とうとうやってしまったぜまめくろーさん小ネタsss。
いやでも楽しかったごめんなさい。
というかこれでもいい。という方が私の他に二人もいらっしゃるとは!(その内のひとりは身内ですがね)
世界は広い。
そして底がない(笑)
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