風呂場で走ってはいけません
「おっふろーおっふろー」
と皆守の抱えた洗面器(with着替えタオルetc)に埋もれつつも、白い毛玉もとい似非海豹もとい葉佩九龍はご機嫌だった。
風呂と言えば皆守の部屋のシンクや洗面所でシャワーとか『ひーちゃんさん』ことお隣の緋勇龍麻からもらった茶碗(というよりは丼)に温泉の素を入れてぬくぬくするのも意外と好きだが今日は違う。
「こーちゃんといっしょにおふろー!ふご」
「……いいから黙っとけ」
むぎゅ。と上からタオルで押さえつけられたが自称『百人乗っても大丈夫』な見た目手の平サイズの白い海豹はへこたれない。
「混浴ー」
「……」
というか全然これっぽっちも気にしていない。
というか混浴ってなんだ。
混ぜるな危険か?
と、皆守の思考もただ上滑りするのだがこの白い毛玉の言動がおかしいのはいつものことなのでとりあえず放っておく。
放っておきたいのに。
「わーおひろー……ぃ?いぉぉぉぉぉおおおおおぶ」
「この馬鹿!濡れたタイルは滑りやすいんだ!!」
ガラガラと器用に引き戸を開け、感動の面持ちでひょいと段差を超え、そのまま滑って壁にぶち当たったらしい頭を抱えて(実際手(ヒレ?)は届いていなわけだが)小刻みに震えてる似非海豹に皆守が怒鳴る。
が、これもいつものことなので気にしない。
むしろ着替えの途中だったのに、わざわざ様子を見にいった皆守に密かにオカンポイントが振り当てられる。
「……ったく、風呂ぐらいではしゃぎ過ぎだ」
「ぶー」
「洗濯機に突っ込むぞ?」
「いやー」
「いいから目ぇ潰れ」
「はーい」
「口も閉じろ」
「……」
「息も止めろ」
「………………………………って酸欠!」
「本当に脳みそ詰まってるのかお前」
「な、なんですとーー!」
「ば、だから暴れるな毛玉!」
「ウール100%!」
「黙れ似非海豹!!」
「ぶぎゃ」
洗い場で相変わらず洗面器の中で泡まみれになっていた九龍が短い手足をばたつかせると、被害を受けるのは勿論その白い毛玉を洗っていた皆守で。
顔まで飛んできた泡に、日頃の言動とは裏腹に沸点の低い皆守が泡の中に白い毛玉を押し込む。
「……て、天国のおじいちゃんが手を振ってました」
「そうか。いっそそのまま行っちまってもかまわなかったんだがな」
「……」
「流すぞ」
「うう、涙もいっしょに流れうぷ」
「……だから流すって言っただろうが」
「で、できればシャワーをおねがいします」
「贅沢な奴だな」
洗面器いっぱいのお湯を被って泡も涙も一緒に流した九龍が幾分くたびれた面持ちで、カレー以外は大雑把な心の友と書いて『心友』に懇願する。
そしてその心友も口ではなんのかんのと言いつつも結局最後まできっちり面倒を見るのだから飼い主、もとい母親、つまりは仲がよい。という結論にまわりは落ち着くのだが。
「……よし、こんなもんだろう」
「ぴかぴかさらさらつるつるびだるさすーん?」
「ただの石けんだというか黙れ超短毛種というかなんでお前の私物にシャンプーとコンディショナーとトリートメントがあるんだ」
「ボディソープと洗顔料もばっちりです」
「……柔軟剤で充分だろ」
「なにをおっしゃいますやら!この輝かんばかりの───!?」
「いいからとっとと入れ」
いい加減湯冷めする。
と口では尤もなことを言いながら、ひょいと毛玉の尻尾(というか足?)を掴むとぽいっとばかりに放り投げる。
「※○■☆!?」
「……海豹のくせに溺れるなよ」
ぼちゃーん。と軽い音を立てて白い毛玉が湯船に落ちるのを見るでもなく皆守もゆっくりと身体を沈める。
さすがに他の人間はいないのでほぼ貸し切り状態でその長い足を伸ばしてゆっくりと息を吐く。
目の前ではぼちゃぼちゃと変な音を立てて白い毛玉が下手なシンクロのような動きをしているが気にしない。
ああ今日も疲れた。などとあくびをすれば。
ぷかー。
と、白い毛玉が浮かんで。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
そのまま何事もなかったかのようにスイスイと泳ぎはじめた。
「……楽しいか?」
「たのしーです!」
なるほど。
胡散臭くてもみてくれは海豹。
陸よりは水の中の方が動きが機敏だ。
と、うっかり火サスのOPもどきのスリルショックサスペンスを提供しかけたことにも気づかず感心しかけたところで。
「……?」
反対側の水面に波紋が起きのそりと白い毛玉が顔を出し。
「……のぼせました」
「……」
のたのたとタイルの上を移動する白い毛玉を、皆守は無言で冷水に突っ込んだ。
2006.11.29
まめくろーさんは自分の面倒は自分でみれますがアロマがいろいろやってくれるのでやってもらっております。
【アロマのオカン度up】
・top
・9ron
・novel
・home