《宝探し屋》アロマ序章お試し版


 勘を取り戻すにはちょうどいいのかもしれない。
 案の定、扉に施された仕掛けを解く為に、獅子の像を設置した瞬間、H.A.N.Tが嫌な反応を示した大瓶が割れ、中からサソリに似た───化け物2体に冷静に狙いをつけながら甲太郎は思う。
 癖のある前髪のしたから覗く双眸は、緊張感がまるでないが、それでも鋭い視線が前方を射抜く。
 
 ヘラクレイオンと呼ばれる海底遺跡の底───《獅子の間》

 頭部を撃ち抜かれ、断末魔を上げて消えるのを確認する前にもう一体も同じように撃ち抜く。
 いつも一緒にいる《宝探し屋》達は本人達の性格に反して《破壊者》と《血の聖母》という物騒な二つ名の通り、探索や戦闘において甲太郎自身が手を出す前に決着をつけることが大半で、お守りと称して持たされた武器を使うことがほとんどない。
 それはそれで楽で良いのだが、それでも、物心ついた頃には叩き込まれていたスキルも使わなければ勘が鈍ってくる。現に今も2体目を一撃で仕留めることができず、もう一発撃ち込んでしまった。
 あの程度の動きを見切れないでどうする。と舌打ちしたい気分に陥ったが同行者のバディ───サラーとかいう、なぜか自分を10代の息子と同じくらいだと思って、やけに子供扱いしてくる老人が、歓声が上げるので、溜息をつくだけでやりすごす。
 H.A.N.Tのナビゲーションが逐一状況を報告してくる中、扉を開け通路を抜け、石碑を読み、仕掛けを解き、次の区画へ向かう。
 その一連の動作に躊躇いはない。
《宝探し屋》としては新人だが(何せ突然押しつけられた)経験は他の《宝探し屋》達に勝るとも劣らない。
 伊達に傍迷惑なバカップル───もとい養い親でもある《宝探し屋》達のバディとして無理矢理連れ回され……いや、優秀な《宝探し屋》達の仕事を間近で見てきたわけではない。

(つーかあのアロハ夫婦)

《宝探し屋》としては有能なのだろうが、それ以外に関しては、迷惑を通り越してもはや天災の域に達しているのではなかろうかと思う二人の無駄に爽やかな笑顔を思い出して知らず、眉間に皺がよる。
 銜えられたパイプをかちりと噛めば、湿っぽい空気に紛れて甘い、花の香りが漂い、そこでようやく甲太郎は、いつになく自分が緊張していることに気づいて、苦笑する。

 ロゼッタ協会所属新人《宝探し屋》ID-0999───皆守甲太郎。
 つい先日、そう言う意味では先達である二人の《宝探し屋》───養い親である皆守凛と皆守志乃から唐突に告げられ、今、甲太郎はこうして一人(バディがいるが案内役だ)で遺跡攻略に赴いている。
 それにいたる経緯は甲太郎の精神安寧の為に割愛するが───石碑の解読も仕掛けの解除も敵の排除も何から何まで自分の判断に委ねられる、というのは存外、身も心も疲弊するもので。
 這いつくばらなければ進めない通路を抜け、蛇のかたちをした杖をおろして仕掛けを解除したすぐ脇の部屋で、淡い光に包まれながら、そっと緊張をほぐすように目を瞑る。



2006.02.14
という感じで。

【clap】


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