せいしゅんりっしんべん


「……やりてー」
「……」

 とめずらしく弱々しい呟きに、阿門は書類から眼を離す。
 ソファにだらしなく寝そべっているのは常なのだが、それすら何かぐったりしているような気がして、ついうっかり声をかけてしまったのは仕方のないことだろう。
 
「何をだ?」
「セックス」
「……」

 記憶を消したり遺伝子を操作したりはできるが、さすがに時間を巻き戻すことはできないので阿門はただ、耐えた。
 己の右腕でもあり懐刀でもある副会長のひととなりはある程度把握しているので、間違っても、その先を促したりはしない。
 しかし、

「ちくしょーあの腰反則だエロハンター」

 本人が勝手に喋りだしたら止めることなど不可能である。

「昨日っていうか昨晩?クエスト帰りに風呂入ったんだけどさー脱いだらすごいってゆーの?いやホント、細いなーってのはどさくさに抱きついた時になんとなく思ってたんだけど、めんどくせーとか言ってるわりにきっちり鍛えやがってなんだよあれどこの格闘家だっての体脂肪とかなさそーつうかだから寒がりなんかなー……しかも肩幅あるくせにそっから下がこう、きゅーっとなってて足も手も長いし腰は細いし!俺としてはもうちょっとケツに肉あった方がいいんだけどあれはあれでそそるよなー……つーか問題は項だよ項。制服の時もだけど私服ん時のあれはもう絶対誘ってると思うんだけど。そもそもいっつもだるだるしてるくせに時々ふっと見せる笑顔が反則なんだよそれにうかれてキスしようとすれば蹴り飛んでくるし。つーか何の予備動作もなしで踵落としとかさ……本気じゃないから避けられんだけど、あの足捕まえて押し倒して制服脱がせて舐めてーとかつい思っちゃうんだよなー……タッパはあるけど体重なさそうだから不意ついて押し倒しちゃえばなんとかなりそうだし。体やわらかいからわりと無茶できそーなんだけどなー……声もいいしなー……つーか泣かせてー絶対いい声で鳴くと思うんだけどなー……知らないわけじゃなさそうなんだけど淡白っていうかこの間、舌入れたら逆に喰われそうになってそれもいいかなーって思った瞬間やっぱり蹴り倒してくれたからなー……恥ずかしがってるわけじゃなくて気が乗らないって感じだったからまあいつかはいけそうなんだけど。てゆうか土下座してお願いしたらやらせてくれるかなー今度頼んでみようかなーでも若い身空で死にたくないしなー……てゆーかやっぱりあいつにいうこときかせるにはカレーかなー……つーかカレーに見せる愛情を俺にも少しでいいから寄越せって言うんだよなー───あ、甲太郎からメール!」
「……」

 いつもの不真面目さが嘘のような機敏さで起き上がり、メールをチェックすると「待ってろ甲太郎!いつかカレーを超えてやる!」と無駄に気合いの入った声をあげ風のように走り去っていく生徒会副会長の後ろ姿を見た生徒会会長が、副会長のあからさまな職務怠慢を咎めるべきか、監視対象である《転校生》におそらく余計な忠告をするべきか悩んだかどうかはまた別の話。



2006.02.26
ワンクッションおいたわりに意外と大したことなかった_| ̄|○

【clap】


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