首輪
「……」
前を歩く葉佩九龍の背中は無駄にご機嫌である。
無視しようにも、目の前の広い背中は視線を足元に落とすか天井を見るかしなければどう足掻いても視界に入る。
「おい」
「なにー?」
「……いつまでしてんだよ、それ」
これ?
と振り返った葉佩がいつもはしっかりと閉めている襟元を緩めると、細い銀鎖の上の、首に巻かれた細めの黒い皮が見えて。
「……外せ」
「ヤだよ」
だって甲太郎がつけろって言ったんじゃん。
と、にんまりと葉佩が笑う。
「犬の話だろうが」
「うん。だから俺の話だよねー」
「キツいだろ」
「そーでもないよ」
「……」
なんの冗談か───目の前のこの男が《犬》になる。
ということを知ったばかりの頃、ふざけて買った(通販だ)グッズの存在を忘れていた皆守が、ガラクタばかりの(本人はお宝だと言い張るが校庭の砂は違うような気がするし講堂のカーテンや椅子は返して来いと再三言っている)葉佩の部屋で段ボールに放り込まれていたペット用品の中から、取り出した黒い首輪を。
「これで俺甲太郎のだよねー」
学ランの下の白いシャツの間からの覗く、黒い皮に指を引っかけ、葉佩が笑う。
「───冗談でも言うな」
無性に腹が立って、軽く蹴りを入れて先に行く。
教室に向かう気は失せたので保健室か屋上か。天気がいいから屋上か。と、後ろの方で大して痛くもないくせに大げさに騒ぐ葉佩を置き去りにして足早に歩く。
だから。
冗談じゃないんだけどなー。
という声は聞こえなかった。
2006.08.26
かどうかはわかりませんが(゜∀゜)
【複雑骨折なアロマ心】
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