ちょっと目を離した隙に、黒い毛玉が毛布の下に入り込んでいた。
濡れたまま。
「……」
片手にタオルを持ったまま、皆守はかちりとパイプを鳴らす。
腰に当てていた方の手が無意識に髪をかき回して無言でうごうごと蠢く毛布に近づく。
何が楽しいのか、つい先ほどまで寒さに震えていた子犬は、黒く短い尻尾を振りながら、毛布を端を咬んだと思えばそのままひっくりかえり短い手足をじたばたさせたかと思えばまた毛布に絡まっていく。
「こーちゃん」
ひょい。と毛玉を毛布の下から引っ張りだし手に持っていたタオルでゴシゴシと拭く。
温かいシャワーで暖めたとはいえ、このままでは風邪を引く。
というか部屋の中が大変なことになる。
「こーちゃん」
膝の上でタオルで拭かれている子犬の抵抗は最初だけでというかむしろ新しい遊び相手と思われたらしく、タオル越しに軽く牙をたてられるが、単純に甘えているようなので放っておく。
「こーちゃんっ」
「うるさい」
思わずばふっとタオルを子犬の顔にかけてしまい、白い靴下を履いたような後ろ足ががしがしと皆守の手を蹴る。
「あ、悪い」
「こーちゃん酷いよ俺にだってそんなにやさしくしてくれたことないじゃないか!」
「阿呆かお前いくつだと思ってんだ駄犬」
「ぴっちぴちの二十歳だよー」
「ば、重いんだよっ!」
背中に張りついてきた大型犬に肘打ちをかますと、ぎゃん。と鳴いて九龍がばったりと倒れる。
「ひどい……」
「お前の頭の中身ほどじゃあない」
ぐずぐずと泣き真似をする男の声が耳のすぐ側で聞こえ、皆守は子犬を拭いていた手を止める。
そもそもこの子犬を見つけたのはこの男はずなのだが、こーちゃんとりあえずうちであずかっていい俺が責任もって面倒見るから!と言ったのもこの男のはずなのだが。
「俺も構って」
ぎゅうっと皆守を後ろから抱きしめる男の顔が近づいてくる。
「いい年して甘えんな」
「……いたい」
「続きはこいつが寝てからだ」
触れた唇を軽く噛んで皆守は、腕の中の子犬を乾かすことに専念する。
背中で躾に失敗した駄犬の見えない尻尾がちぎれんばかりに振られているであろうことは、とりあえず考えないことにした。
2007.03.19
いぬろーさんといいつついぬろーさんは一瞬しかわんこになってない(しかも既に育ちきってる)というお話。
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