アロマちみっこネタsssその4
小さな皆守はよく眠る。
元々よく眠る男だったが、それでも以前はその眠っている姿を他人に見せたことはなく。
眠い。が口癖の、花の香りを纏った男はその実、眠りの淵を微睡むだけで眠ってはいなかったのではないか、と、こうして、人の気配(たとえそれが馴染んだものであっても)のする中でも目覚める気配すらみせない幼い姿を見ると、どこか言葉にはできない感情が沸き上がってきて。
「よく眠ってますね……」
「そうだな」
「おかしな感じですね。これがあの皆守君かと思うと……」
「……」
「───写真にでも残しておきましょうか。もしもの為に」
「……」
もしもとはなんのことだ。
とは思っても口には出さず、何の躊躇いもなく携帯を取り出し小さな皆守を写真に落とした会計の姿を視界の隅に収めながら、静寂に満ちた生徒会室では意外と響いたシャッター音にも目を覚まさない小さな皆守に視線を落とす。
神聖な、教職員すら立ち入ることを許されない生徒会室を託児所か何かと思っているのか、授業中、あるいは探索中に小さな皆守を預けていく、自称《宝探し屋》の肩書きに最近は保護者も付け加えた男はやはり今日も些か能天気すぎる声音で小さな皆守とその皆守用の弁当(どうやら雛川の手作りらしい)を預けて授業に戻っていったのだが。
ソファの上で眠る今は小さな同胞は彼がよく好んで身に付けている炎のモチーフの入った薄紫のパーカーに裾の折られたジーンズに包まれた足を少しだけ丸めて黒いぬいぐるみを抱えて眠っている。
それは小さな皆守が葉佩九龍のことを『近所の家で飼っていた犬のクロ』と認識している節がある(ただ形も中身も幼いがそれなりに聡いのでその辺りの真意がどこにあるのかは皆守にしかわからない)ということから3-Aの椎名リカ(元執行委員)の特製の───黒い犬のぬいぐるみだ。
それは本人にもまわりにも意外と好評で。
今ではそのパーカーのフードに入れ(本来はそういう用途で使うものではないはずなのだが誰も何も言わないので阿門も何も言わない)或いは片手に引き摺り(葉佩は何故かそれを見る度に嘆く)あるいはこうして───抱きしめるように眠っている。
小さな皆守はよく眠る。
まるで何かを取り戻すように。
まるで何かから逃げるように。
それでも眉間に皺が寄っているよりは青ざめた顔で死んだように眠っているよりは唐突に意識を失うように眠るよりははるかにマシだ。
と、声を荒げるでもなく淡々と、普段の何も考えていないような貌を外し、めずらしく心中を吐露したのはここにはいない男で。
《生徒会》と生徒会室が第三者には───外敵から侵されないことを知っている男で。
小さな───身を守る術を持たない、おそらく弱点と認識されている皆守を安心して託せる場所であることを知っている男で。
「───」
不意に。
その幼い瞼が震えて───やがてゆっくりと開かれる。
大きくても小さくても───その茫洋とした視線は変わらず───ゆるゆると瞬くと、小さな手で身体を支えて起き上がる。
すると、
「甲太郎ー!昼飯だぞーー!」
静寂を打ち破る明るい声と同時に扉が開いて、《生徒会》とは相容れないはずの男が姿を現す。
「……くろ?」
「クロはそれ。俺は九龍。───良い子にしてたか?」
「……してた」
「そっかーでもヨダレついてるぞー」
「ついてない」
「即答かよ。ちっちゃくてもかわんねーなーお前。まーとりあえず飯にしようぜ、やっちも屋上で待ってる───じゃあそういうことで、」
最後の一言はにわか親子の会話についていけなかった会長と会計に向けられたもので、ちらりとこちらを見やった視線には本来なら有り得ないはずの感情が閃いて。
けれどその、《墓荒らし》の全幅の信頼を当然のことのように受け止める自分がいて───。
「クロはこっち、弁当は自分でもてよ?雛センセの手作りだかんな」
小さな皆守のフードに押し込められたぬいぐるみと、その左手に持たれたかわいらしい色合いのランチボックスと───しっかりと握られた右手に。
この平穏が少しでも長く続くことを祈って。
たとえそれが偽りの平穏だとしても。
2006.05.13
これは本筋扱いde次から小ネタ扱いdeさらに時間軸も前後したりde本筋だと次はレリ丼だったり……。
【神鳳さん写真下さい】
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