カレーの王子様


 皆守甲太郎と言えばカレー。
 カレーと言えば皆守甲太郎である。
 しかし。

「……ええっと、カレーとか、食える?レトルトだけど」

 元はあれで中身がどうあれ今は子供である、皆守が。
 こくん。と頷くのを見て。

(ちっちゃくても甲太郎は甲太郎なんだなー……)

 と、皆守の部屋に備蓄されているレトルトカレーを二つ、失敬しつつもローテーブルの向こう。誰が持ってきたのかわからないが、やけにファンシーなライオンの顔をしたクッションにきちんと座り、某国民的ゲームの青い水滴のようなかたちの、つぶらな瞳と目が合いつつも、そのぬいぐるみを抱えている小さな皆守は、なんというか。

(あとで写真撮ろう)

 と、心に固く誓いつつ。

「はいどうぞ」
「……」

 皿は普通の白い皿だが、小さな手に握られているスプーンは子供用の黄色の電気鼠が描かれているもので。

(つーかなんで全寮制のしかも高校なのにみんなこんなの持ってるんだ?)

 と、思いつつも、自分は置いてあったスプーンを手に座る。
 いつもはカレーを用意するのは皆守だったが(というか触らせてもらえなかった)

(まあたまにはこういうのもいいよね)

 と、ひとり笑って手を合わせ神妙な顔をする。

「いただきます」
「……いただきます」

 普段ならおざなりにする挨拶も、小さな子供の手本になるように。と、真面目にやればそれを倣うように舌ったらずな声が聴こえて。

(ああああ今すぐメールしたい!メール!!)

 やっちどうしよう俺、この小さないきもの大好きかも知んない。と誰かが聞いていたら速攻で引き離されるであろう独り言を心の中で叫んで、一口食べる。ああやっぱり甲太郎のカレーはたとえレトルトでもうまいなぁとほころんでいると。

「───甲太郎?」
「……」

 同じように。ぱくりと一口。スプーンを含んだ小さな皆守の動きが止まって───。
 
(あ、れ?)

 猫舌じゃあないよな?と思いつつ黙って様子を見ていると、ゆるゆると、小さな皆守の目元が潤んできて───。

(え?え?な、なに───あ、あれ?駄目?カレー駄目?え、じゃ、ど、どどど───……ってあれもしかして)

「甲太郎」
「……」
「……辛い?」
「……」

 小さく、けれど確実に縦に振られた頭の動きに、葉佩の血の気が引く。

「か、辛くて食べられないなら無理しないで!出しちゃっていいから!ね?大丈夫だから!」
「〜〜〜〜」

 慌てて声をかければ、今度はぶんぶんと勢いよく横に振られて。
 いやそこまで無理をしなくてもっていうかやっぱり小さくてもカレー星人、違った、皆守甲太郎。カレーを粗末には出来ないのかっていうか。
 と具体的な打開策が何も思い浮かばないままうっかり現実逃避しかけたところで───。

「って、あ、食べた?辛い?辛いよね!そうだよね!尋常じゃないよね!!これ、毎日毎日カレー食ってる人間のお気に入りだから普通より辛いに決まってるじゃん俺!っていうかええっととりあえず水?ええっと牛乳の方がいいんだっけ?───ってないしそんなの!!」

 誰か水かミルクかカレーの王子様持ってきて!!

 ───という、若き《宝探し屋》の声が夜の静寂に木霊したとかなんとか。



2006.10.10
この後マミーズにお子様ランチが出来たとか出来ないとか(笑)

【もちろんカレー】


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