暁は遠く遥かに
「じゃあ俺行くね……」
「九チャン……」
「ああっとでも卒業式には戻ってくるから!」
「ホント!?」
「た、たぶん」
「……」
「い、いや、ちゃんと戻ってくるから!」
「約束だからね!」
「う、うん」
「もし戻ってこなかったらスマッシュだからね!」
「絶対帰ってくるよ!!」
(阿呆か……)
感動の別れ(らしい)もボケと天然ボケのせいでぐだぐだだ。
そもそもこっそり出て行くつもりだったらしいこいつが、話がある。というので眠いのを我慢して寮を出てみればそこにいたのは、この数ヶ月の間にこいつと関った奴ばかりで。
何処から漏れたのか知らないが、結局、大勢の人間に見送られての出発は相応しいと言えば相応しいのかもしれないが。
「えっと、ごめん、そろそろ時間なんだ……」
「わかった。元気でね」
「うん。みんな、ありがとう。───甲太郎」
「───あ?」
目の前の光景よりも眠気の方が勝ってうとうとしていた俺に、九龍が手を差し出す。
こんな大勢の人間の前で握手なんかやってられるかというかそもそもなんで握手?と思っていると、
「行くよ」
「───は?」
行くってどこへだ?
「ちょっともー……しっかりしてよー」
「待てお前何言って───」
「だから行くよ」
「……どこへ」
「俺と一緒にゲットレ」
「───はぁ!?」
何言ってんだお前っていうか俺の都合はというか何だそのさも当たり前のような顔は!
「だって、甲ちゃん。よーっく考え見て。……卒業できそう?」
散々サボって。
しかもあの成績で。
そりゃやれば出来る子だってことは知ってるけど。
仮に卒業できたとして。
その後はどうするの?
進学なんて今さら無理だよねっていうかもし万が一、進学しちゃったら世の中の真面目な受験生に失礼だよね。
だからっていきなり社会に荒波に放り出されたら甲ちゃんあっという間に溺れちゃうよ。
「……」
いやまてなんだそのシミュレーション。
というかお前等なんだその納得したような溜息は視線は沈黙は!
人を社会不適合者みたい言うな俺だってその気になれば……なれば、
「───というわけで甲ちゃん」
がしっと腕を掴まれた。
目の前には満面の笑み。
まるで遺跡で《秘宝》を見つけたような───って待てオイッ。
「というわけで皆、甲ちゃんは俺が立派な《宝探し屋》のバディにしてみせるから!」
立派な《宝探し屋》って誰のことだよ!と混乱のあまりどうでもいいことにツッコミ入れてる場合じゃないだろう俺!と平静を取り戻そうとしているのに、いつの間にか万歳三唱で送り出され、いつの間にか校門の外に止まっていた場違いな黒塗りの車に押し込まれ、いつの間にか用意されていた俺の荷物を渡され、
「幸せになろうね」
ちょっと待て最初と主旨が違うというか俺は認めてないというか、いい年した男が頬なんぞ染め───なんで顔が近づいてくるんだっ!?
数ヶ月後。
なぜかぼろぼろな《宝探し屋》といつにもまして気だるげなそのバディが無事、卒業式を迎えられたかはまた別の話。
2006.05.29
『黄昏〜』に続く。
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