黄昏は遠く彼方に 2
「……」
ロゼッタ協会では皆守のバディとしての面接のはずが、いつの間にか葉佩父子との親睦を深めていただけという、あまり考えたくないことにはなったものの、とりあえず最後に一応己の職務を思い出したのか実に軽い口調で「じゃあ2、3日後には受理されてると思うから」とあっさりと宣い息子に似た笑顔で送りだされ、さすがに精神的に疲れた皆守がところかまずうとうとしかけたのを見た九龍に「じゃあ帰ろうか」と言われ頷いて辿り着いたところは、
「なあ、」
「なに?あ、お腹減った?それとも最初にお風呂入る?」
いやまてなんだそのどこかで聞いた事のあるような台詞はというかその後にお約束の台詞を付け足したらどうなるかわかるだろうな。という視線を突き刺して黙らせた皆守は半眼のまま、呟いた。
「なんだここは」
「え?気に入らなかった」
スイートだよ。
と、どこか誇らしげに胸をはる九龍をとりあえず拳一つで黙らせて、広過ぎる部屋をただ眺める。
ひとりで(ここ四倍角)眠るベッドさえあれば(なくても困らないが)どこでも眠れる皆守にとってこの部屋は無駄に広い上に豪華過ぎた。
生まれてたかだか十数年だがこの手の贅沢には無縁で生きてきた。
はっきり言って落ち着かない。
さらにはっきり言えば無駄だ。
この部屋を取る為にかかった金のことを考えたら、その分でカレーのスパイスを揃えた方がよっぽど建設的だ。と心の底から信じている皆守は、頭の片隅で閃いたシチュエーションを速攻で封印した。
だから当たり障りのない極々一般的な疑問を唇にのせる。
「お前、いつもこんなところをとってるのか」
「いや今日は特別。だって甲ちゃんとはじめて二人きりの婚前───」
速攻で消した選択肢をあっさりと口にした男を脊椎反射で蹴り倒して、とりあえず広すぎる部屋を横断しそこにどんと置いてある大の大人が3人は余裕で眠れるベッドを素通りし、その向こうにある部屋の扉を開いて、後ろでようやく復活したらしい男の焦ったような声を無視して中に入り鍵を閉めた。
「ちょ、甲ちゃん!」
「俺はこっちで寝る」
「え、ま、待ってっ!」
「おやすみ九龍」
「こ、甲ちゃん!!」
最後だけはすこぶる爽やかにしかもとびっきりの笑顔付きで(勿論相手に見えないからやったのだが)声をかけると、扉の向こうで泣き崩れる気配を無視してベッドに入る。
こちらもひとりで眠るには大き過ぎるベッドだが、値段に見合うだけの心地よさにすぐ瞼が落ちてきた。
「甲ちゃーん開けてー俺も入れてー一緒に寝ようーなんにもしないからさー……」
扉の向こうではまだ泣いているようだがその声すら子守歌がわりとなって皆守の意識はあっさりと夢路に旅立つ。
しかし皆守は忘れていた。
扉の向こうで捨てられた犬のように泣く男の特技を───。
「……」
「甲ちゃんおはよー」
「……」
「あれまだ寝ぼけてるのかな?じゃ、じゃあおはようのウグ」
いつの間にか自分を抱きしめるように一緒のベッドで眠っていた(らしい)男が脂下がった笑顔からどこか恥じらうように頬を染め顔を近づけてきたのを、冷静に蹴り落として、皆守はこれからの人生についてようやく真剣に考える決意をした。
2006.06.13
この話はアロマがいつ自分の気持ちを認めるかがポイントです(笑)
【がんばれ】
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