『黒猫と狼』(※阿呆ネタですよ)


「大事な話があるんだ」

 と酷く真面目な顔で男はこう告げた。

「俺、お前に猫耳が見えるんだ……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……は?」
「あ、あと尻尾も」

 そんなことはどうでもいい(いやどうでもよくはないが)
 ともあれ。
 恥じらうように(いい年した男が)眼を伏せた男の顔から視線を外し、皆守はすぐ脇にあった鏡を見た。
 そこにはいつものように、くせ毛の、どこか眠そうな男の顔が映っているだけで。
 
「───九ちゃん」
「ごめん!今まで黙ってて!」

 実は今も見えてるんだ!
 と、声高に叫んだ男の顎を蹴り飛ばしたとしても皆守に罪はないだろう、おそらく。
 結果として男は壁に激突して悶絶しただけで、痛いと涙目にはなったものの、至って頑強な身体の持ち主はその数分後には実にすっきりした、というかいつもと変わらない顔で(多少は困ったような表情をしていたが)皆守に触れてきた。

「……この辺に」
「……」

 あるんだ。という言葉は思いっきり睨まれて声にはならなかったが、皆守のくせ毛に絡んできた指は、確かに何かを撫でているようにも見えなくはない。
 
「……何にも感じないぞ」
「だろうなぁ……」

 やわらかいが、しっかりと自己主張はするくせ毛を梳く指を遊ばせたまま、男が微かに苦笑する。

「つーかお前、今まで俺の頭にやたらめったら触ってきたのは……」
「ああ、うん。……最初に触った時に逃げられなかったから嫌いじゃないのかなと思ってな」
「最初?」

 ほら空き地で。
 と、今度は皆守には見えない(というか今でも半信半疑だが)猫耳ではないほうの耳朶をなぞる指がそのまま頬をたどって首の後ろに触れる。

 実ははじめて会った時から見えてたんだ。
 と、笑う男の顔を思わず見詰めると、落ち着かせるように掌が背中を撫でて。

「さすがに俺もやばいなぁと思ってたんだけど、お前、空き地で寝ただろう?……起きる気配がなかったから、つい、こう、な……」

 ほら、俺、意外と動物好きだし。
  
「そうしたら、触感があって、ちゃんと、あたたかかったんだ」
「……」
「いよいよもってまずいと思ったんだけど……どうやら、お前にそれがついてるが見えてるのがどうやら俺だけだとわかってからは……まあいいかと」
「はぁ?」

 動物好きってなんだ初耳だぞっていうか俺は動物かよ。と密かに動揺しながら、思わず身を引いた皆守の身体をやんわりと掴まえたまま、穏やかに微笑む。

「俺さえその存在を口にしなかったら誰にもわからないことだろう?」
「……むしろそんなこと、口に出した時点で病院送りだ」
「さすがに初任務をいきなり失敗するわけにはいかないしな」
「そういう問題か」
「まあそれに───」

 何か嫌な予感がして今度こそ離れようとした皆守をあっさりと掴まえて、男はのほほんと、いっそ朗らかといってもいい声で呟いた。

「慣れると意外と可愛いんだ」

 お前に猫耳。

「!!」

 あまりの言い様に二の句が付けない皆守の、背中を撫でていた手がそのまま滑り落ち───。

「ばッ───」
「それにこっちは色々正直だから、」
「〜〜〜!!」

 おそらく───あまり考えたくないことだが───この男には見え剰え触れられるという、尻尾の付け根とおぼしきところを撫でる指と、耳朶に直接吹き込まれる男の声音に皆守が固まる。
 おそらく───おそらく、他意はないのだろう、と信じたい。が。

「───猫耳も尻尾も悪くない」
 
 悪くない訳あるか!!!
 と、我に返った皆守が、牧羊犬の皮を被った狼に食べられたかどうかはまた別の話。



2006.10.17
このにゃんこたべていいんだわーいってなったおおかみさんはつねにねらってるとかそういうはなしじゃなくてええっとうんあれ?

【しっかり喰われm】


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