噂の皆守甲太郎
「……」
街を歩いていると。
時々、ある特殊な職業と思しき、強面のお兄さんがぎょっとしたような顔をしてそそくさと立ち去ったり、あるいはどこで売ってるのそのスーツ。みたいなのを着てるお兄さんが、姿勢を正してお辞儀をしたりなんかする。
勿論俺に心当たりはないので。
「甲太郎」
「なんだ?」
「知り合い?」
「誰が?」
「さっきのはでスーツのお兄さん」
「知らん」
「……」
この隣りの、いつもどこか眠そうなだるだる男のはずなのだが、結果はこの通りで。
いやでもお前、絶対あいつら、お前のこと見てビビってたよ。とは口には出さなかったがかわりに、
「甲太郎って昔どうだったの?天香来る前」
「あ?……普通だろ」
「じゃあ質問変える。ええっと、何か、上級生に呼び出されたり他所の学校の人達に囲まれたりとかそういうの、なかった?」
「……」
沈黙は肯定と同じなわけで。
しかしそれはどちらかといえばマズイというよりは面倒くさい。という空気が漂っていて。
「で、そういう時、甲太郎はどうしてたわけ?」
「……面倒くさいから偉そうな奴の潰して終わりだ」
(うわあこの男)
本当に。
つまらないことのように甲太郎があっさりと白状する。
そういえばこいつを不良とか誰かが言ってたような……と不確かな記憶をたどりつつ。
「でもそういうのって、なんか、後から後から、際限なく出てくるんじゃないの?」
「…………まあな」
「で、どうしたの?」
「……なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「いいからいいから、で、どうしたの?」
「どうって……たしか、その内の一人の、何度蹴っても殴ってもボコってもつっかかってくる奴がいて……」
「東京湾に沈めたの!?」
「なんのドラマだ……なにか、最後には面倒になって適当にあしらってたら向こうも諦めたらしくてな……つっかかってはこなくなったんだが、そのかわり、気がつけばまとわりつかれてて……」
「……ええっと、その人って、他にも大勢舎弟───違ったお友達がいるような人なんじゃないの?」
「みたいだな」
「───甲太郎は誘われなかったの?」
「なんでそんな面倒くさいことしなきゃならないんだ?」
(素かな天然かな本気でわかってないのかな……いやでも甲太郎に特攻服とか似合わないし)
「しかも天パだし」
「あ?」
「いやいや……で、その人とは仲良かったの?」
「さあ、どうなんだろうな……時々、一緒にカレーは食ったが」
(ナニソレ。ちょー友達じゃん)
「俺が小学校を卒業する頃には家業を継ぐってどっか行ったからな」
「小学校!?」
「……なんだよ?だから言ったろ、普通に学校に通ってた。って」
「聞いてないよ!じゃなくてそれ、中学の話じゃないの!?」
「は?中学の時も普通だぜ。カレーと勉強とカレー」
「普通じゃないよ!お前が勉強!?」
「……。他にすることがなかったんだよ」
「え、じゃあもしかして優等生!?」
「失礼な奴だな」
「いやだって……」
(小学校の時がやんちゃで、中学がガリ勉で、高校が───)
「……學園と書いて牢獄。と読むくらいどうってことないか……」
「───お前今何かとてつもなく失礼なことを言ってるだろ」
「いやいやいや───っていうか、結局、小学校時代のお友達って、いくつだったの?」
家業。ってあれだよな。きっと。
と思いつつ隣りを見ればアロマパイプからふぅっと煙を吐き出しながら、甲太郎が言う。
「さあな。でも高校の教師をやってたくらいだからそれなりに年はいってたんじゃないか」
「先生!?」
「……耳元で大声を出すなうるさい」
(ちょ、ま、ナニソレ!)
小学生に突っかかってさらに負かされてまとわりついて一緒にカレー食べてでも夜中に集会やってる高校教師って何!?
「───……甲太郎」
「あ?」
「その人の名前、なんていうの?」
「……んなのどうだっていいだろう」
「言えないの!俺には言えないの!?」
「だからっ!さっきから何なんだよお前は!おぼえてねーんだよ!」
「……思い出して───っていうか思い出してもらうから」
ね。帰ろう。
「!」
と、にっこり笑って───何故か甲太郎はその俺の顔を見て引きつったような顔になったけど───甲太郎を引き摺って家路を急ぐ。
(絶対、絶対吐かせてやる!)
2006.11.09
徒然に終わる。
というか最初は普通に中坊アロマはやんちゃ伝説。だったはずなのに、一回データ消えてから書き直したらこうなりました。
たぶんハバキチさんが羨ましがってるような邪推してるような関係ではないとは思うのですが。
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