酒は飲んでも飲まれるな。
「シュウv」
「重い」
「そんだけ〜」
「酒臭い」
後ろから抱きついてきたククールにシュウは素っ気ない声を出す。言外に「退け」と匂わせているのだが、ほろ酔いのククールが素直に聞くわけもなく、それどころか項のあたりに鼻先を押しつけ笑う気配にひっそりとため息をつけば。
「───つうか最近おとなしーけど何?惚れた?」
どこをどうしたらそういう結論になるのか。
惚れた?
誰に?
「……男が抱きついてきた時は甘えてるだけだからそのままにしておけって」
「───誰が?」
「ジヴ」
「……どちら様?」
「……城の、」
「美人?」
「───ああ」
こういう時はこの男の軽薄さがありがたい。さり気ない強引さで逸らされた何かを憶う一歩手前で引き戻すその声。
「……茨になってもきれいだった」
「へぇ」
「酒場でさ、酔っぱらい相手に笑ったり怒ったり殴ったり……機嫌がいいと歌ってくれて、他にもいろんなこと教えてもらった」
「───たとえば?」
「酔っぱらいの撃退法とか痴漢の対処法とか馬鹿な男に貢がせる方法とか」
「…………」
「男はみんな子供だから時々なら思いっきり甘やかしてもいーんだとか」
「だから甘やかしてくれるわけ?」
「いやなんかもう面倒だから放っておいてるだけだけど」
「……」
「嫌なら離れろって」
「いやじゃあないの」
「だからって力入れんな!」
「痩せた?」
「うるさい」
「食べなきゃ駄目だぞ〜おっきくなれないぞ〜」
「う・る・さ・い」
「でもこれぐらいがちょーどいいんだよな〜」
「俺はお前の抱き枕じゃ……っておい!」
耳の辺りをくすぐる気の抜けた声に油断したわけでもないのだが。
両肩にだらしなく乗せられていた腕の重みが唐突に消え、その先の手に肩をつかまれ押し倒される。
「どーせもう風呂入ってんだしあとは寝るだけじゃん」
首の後ろに感じる腕の感触にどうにか横を向けば。
「だけじゃんってお前……」
指の隙間からこぼれる冷めた銀色がぼんやりと光って。
その間からのぞく空色の瞳が朧げに揺れて。
「……おやすみ」
「───え?」
瞬きにも満たないその刹那に。
「おい───って、寝たのかよ……」
げっそりと力の抜けた声とかすかな寝息が被る。
(この酔っぱらい)
この手の人間は何人も見てきているので自分は酒なんか飲むか。と思っているのだが。
こうして暢気な寝顔を見るしかない状況に陥ると。
(なんか損してないか俺。なんで野郎二人で狭いベッドで寝なきゃなんねーんだ?畜生、次は俺が飲む。でもってこの馬鹿に酔っぱらいって奴がどんなに傍迷惑なやつかってのを教えてやる)
よし。そうしよう。
と密かに決意したシュウが。
自分の体にまわされた腕を解いて隣のベッドで眠ればいい。
ということに気づいたのは翌朝、朝食の席で頭を抱えながらもどこか幸せそうなククールの顔を見た時だった。
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