A betrayer's meal poor apple pie03


「たっだいまー!……って、あれ?」
「……」

 遺跡の探索から帰ってきた葉佩が天幕の入り口で、両手をひろげたまま、止まる。
 目の前には愛しい人。
 しかし愛おしい人は枕元に銃を放り投げたまま。
 そしてその愛しい人の足元に。

「───ひどいよこーちゃん!俺という恋人がいながら!!」

 男が一人倒れていた。
 しかもロープでぐるぐる巻き。
 意識はないようだがその顔は(男の顔なんてどうでもいいのだが)どこか苦しげに歪んでいて。
 
「……お前、他に言う事はないのか?」

 呆れを滲ませた口調で皆守が呟く。
 足元に倒れる男を軽く蹴って、この状況をなんとも思わないのかと問い質したい気分と、まあこの男に何を言っても無駄だろうと達観した思いに軽く頭を振って立ち上がる。
 どうせ先ほどのやりとりは全部、聴こえていたはずだ。
 この天幕に仕掛けていた盗聴器から。
 
「お腹空いた」
「レトルトカレーならあるぞ」
「嘘!俺、こーちゃんのカレー楽しみにしてたのに!」
「……誰のせいだと思ってるんだ」
「“俺”じゃあないよね?」
「“お前達”だ」
 
 えーそれって俺ってノーカンじゃないの?
 と、天幕を出る皆守の腕を掴んで九龍が甘える。
 ごろごろと喉を鳴らしかねない雰囲気の葉佩とパイプを銜えて火をつけようとした皆守の前にすっと人影が立つ。
 二つ。

「よー《王子》元気そうで何より」
「誰が《王子》だ」
「残りの者達はどうします?」
「んー朝一で引き取りにくるっていってたからあいつと一緒に放り込んでおけば?」
「わかりました」

 燃えるような赤い髪の男がにんまりと笑って皆守に手を振れば、その隣りの表情の乏しい青年が事務的な口調で葉佩に指示を仰ぐ。

「いやでも一応心配したのよーこれでもー」
「嘘つけ」
「《秘宝の夜明け》の方はどうします?」
「そっちはリリィとオリオンが行ってるはずだから大丈夫じゃないの?」
「相変わらず可愛いなぁー《王子》」
「かき回すなッ」
「あああいいなーいいなーつーかこーちゃんは俺のだから!」
「ではまた明朝」
「ああうん。あとよろしくー」
「じゃあな《王子》───ほどほどにな〜」
「なッ」
「どーどー落ち着いてー」
「お前が言うなっていうかお前がどうにかしろ!」
「無理だよライアンもジーンも俺の事好きだけど俺の言う事聞くようなタマじゃないし」
「……」
「ああでもこーちゃんは別腹だから!」
「……」
「お腹に入れても痛くないから!!───あれ違った目だよ目!いやでも実際いれ───」
「もういいそれ以上しゃべるな……」
「あああそうだ!消毒!しよう!今すぐ!俺が!!」
「どこも怪我なんかしてねぇっておい待てお前どこ触っ……」
「いやでもあいつ!寝てる間になにかしたかもしんないじゃん!」
「……寝てねぇし触られてもいねぇ」
「何言ってんの!昼間あんなにぐっすりすやすや寝てたじゃん!!」
「……」
「俺が遺跡のトラップに引っかかってる時に!」
「……引っかかったのかよ」
「こーちゃんの寝言がすんごい可愛くてついうっかりポチッと」
「おい待て寝言ってなんだ」
「……『カレー星人が』」
「!!」

 女王陛下の忠実なる狂った《騎士》───忠実なのは己の好奇心と欲望なのだが───《火蜥蜴》と《殺し屋》が、生暖かい目で見送る二つの人影のひとつ───こうしてきまぐれにつき合ってやってもいいと思うくらいは気に入っている同胞は、年下の恋人を誰の目にも触れさせないようにどこかに閉じ込めて鎖に繋いでしまいたい。と真顔で言うくらい溺愛しているのだが、それでも時折───何も知らない仔猫を見ず知らずの場所に置き去りにするような真似をする。

 今回も《内通者》が誰かはわかっていたのだ───最初から。その目的も。標的も。
 だからこそ《悪魔》はその目の前にとびっきりの餌を置いて───罠にかかるのただ待っていた。
 そしてそのとびっきりの餌自身も───わかっていたのだ。
《内通者》の目的も恋人の思惑も。
 何も知らないような顔をしてその実───正しく己を取り巻く事情や環境を把握して。
 それを踏まえてとろとろと、あるいはだらだらと微睡んでいるのだから───こちらも相当だ。
 その外見に惑わされて《姫》と誹りながら何度も痛い目に遭っているにもかかわらず、同じ轍を踏む輩にはわからないだろうが。
 あれはいずれ───。 
 
「……うちの《王子》様。意外と化けるかもよ」
「……猫は元々化けるものだ」
「───へぇ」
「朱に交われば赤くなる───あるいは元々赤かったのだがメッキが剥がれたのか……とりあえず、九龍が幸せならそれでいい」
「まあつまり、お似合いってこと?」
「ああ……似合いのバカップルだ」
「……」

 本気かな。本気だろうな。つーか誰だこの天然にそんな言葉教えた奴は。
 と、思いつつ《火蜥蜴》は赤毛をかきあげつつ煙草を銜え───。

「なあ、お前、火、持ってない?」
「ない」
「……今《王子》んとこ行ったら殺されるかなー」
「短い人生だったな」
「……」 

《殺し屋》の言葉に天を仰いだ。


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『A betrayer's meal poor apple pie』
お題『外国語散文』より
配布元:BIRDMAN http://birdman.zouri.jp/


2006.08.16
なんというかごめんなさい。

【これでも皆主】


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