傷痕に咲いた花
「痛い?」
「……いや」
皆守の胸の真ん中には傷がある。
醜く引き攣れた傷跡だ。
「俺は痛い」
「……」
内側から破れ真っ赤に染まったあの時を思い出しているのだろう───いつもは底抜けに明るいその貌も今はどこか痛ましげで。
痛くはない。
本当に。
あの時でさえ、痛みは感じなかった。
ただ。
目の前で哭く貌が───。
「九龍」
「ん」
「九龍」
「うん」
呼ぶ。
その声にこたえるように、九龍がそっと、その傷跡に触れる。
何度も。
「……いい加減にしろ」
「痛っ!暴力反対!!」
「こういう時だけ常識ぶるな」
「失礼なー俺はこう見えてすこぶる紳士ですよ免許持ってますよ」
「なんのだよ」
「それはこれから手取り足取りベッドでうご」
「……紳士は道ばたで寝転がったりしないんじゃないか」
自称、紳士の不埒な手を振り払って蹴り飛ばして何事もなかったかのように踏みつけて、歩き出す。
背中でいけずーだとひどいーだの女王様ーだのわけのわからないことを呟く相棒が立ち上がる気配を感じて。
呼ぶ。
ただ。
「九龍」
「はいはいつくればいいんでしょーカレー」
横に並んだ九龍にその腕を取られ、こめかみに触れた小さな熱に驚いた隙に唇を塞がれる。
「───九龍ッ!!」
「好きだよ甲太郎!愛してる!!」
「逃げるな変態!!」
人通りがほとんどないとは言え、往来のど真ん中でベロチューをかました男の無駄に爽やかな顔に狙いを定めて走り出す。
「九龍ッ!!」
皆守の胸の真ん中にあった華は散り、そのかわり一生枯れる事のない花が咲いた。
2006.08.22
『裏切りに咲く華』ラブエンド篇(逃走)
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