とら


 甲太郎のスキンシップは激しい。
 というか文字通り嘘偽りなく、痛い。

 例えば俺がほんの気まぐれでほっぺにチューしただけで、

「はっはっは、───死ね」

 と常人と言うか普通の、ただの人間には避けられない蹴りを仕掛けてくる。
 勿論ただの人である俺はそれを喰らったらただでは済まないので、甲太郎の肌の感触を名残惜しみながら、今まで培った反射神経と勘を総動員して、避ける。

「逃げるな」

 と恫喝にも等しい声音が笑顔とともに吐き出されてもうっかりその笑顔にふらりとよろめきそうになる理性を叱咤して、近づかない。
 甲太郎は俺が蹴っても殴っても踏みつけても大したダメージにはならない。と本気で思ってるらしく、まったく容赦しない。
 遺跡で時々ブッキングする某暁な方々に対する攻撃の方が緩いんじゃないかと思うくらいだ。
 さらに本人はそれでも戯れてるくらいの感覚だから恐ろしい。
 虎が産まれて間もない仔猫と遊んであげてる。くらいの認識なのだ。
 本人は可愛がってるつもりでも、猫の方はその大きな手や牙に翻弄され、真面目に命の危機を訴えても、それをもっと構って。という風に解釈されてしまうような。
 さすがに仔猫とは言わないがそれでも野良犬風情が何の装備も策もなく太刀打ちできるような虎ではない。

「───余裕じゃないか」

 いやいや余裕なんかない。
 こっちはもういっぱいいっぱなんだ!と白旗を揚げたところでこの猛獣はやはり大きくても猫なのか、自分の気が済むまではやめない。
 いやおまえなんでそんなに楽しそうなの?というか俺のこと嫌いなんじゃ本当は。と余計な考えさえよぎるような物騒な笑みをうかべ片足を少しだけ引きほんのわずか腰を落とす。
 いつもは頼りになるその姿も実際、相対してみれば。
 ラベンダーの香りがしただけで、この世の終わりのような恐慌を起こす某暁他敵対組織の方々の反応が、わかってしまう。
 大げさなんかじゃない。
 それは紛うことなき事実なのだと、目の前で不穏な───それでいて楽しそうなオーラを背負う《カレー屋》の姿を見て───俺も覚悟を決めた。


→next

・top
・novel
・home