アニバーサリーハッピーリロード
「……」
去年の今日を思い出すと切なさだけがこみ上げてくるけど今日は俺の誕生日だ。二十歳だ。これであの人達に『未成年だから』という理由で弄ばれることはもうない。さよなら烏龍茶。こんにちは大吟醸。
いや違ったそうじゃない。ぶっちゃけそんなことはどうでもいい。
俺だって自分の誕生日だからって特別に何か嬉しいわけじゃない。何かしたいわけでもない。
甲太郎は言っても信じないかもしれないけど、俺だって以前はどうでもよかった。
気にしはじめたのは甲太郎と逢ってからだ。
晴れて恋人同士となった今でも、淡白な甲太郎と公然といちゃつける理由が欲しかっただけだ。
最も、甲太郎の誕生日は素直にお祝いをしたかったし、ありがとうって言いたかったし、なにより一緒にいられることが嬉しかった。
でもいざ恋人同士らしい記念日を!と思っても現実はそううまくいかず。というかどちらかといえば連戦連敗。今年こそはリベンジを!と思って綿密な計画を立てていたはずなのに結局。
(あー……終わるー)
あと1時間くらいで日付のかわる時計を見ながら甲太郎のアパートの前でため息をつく。
部屋に明かりはついていなかった。もしかしたらもう寝ているのかもしれない。バイトがないのは確認済みだけど、だからと言って甲太郎が俺をおとなしく待ってる理由なんかないし。
だいぶ無茶をやらかしたので今回もあまり時間がない。
いや時間はあるのだが。
「た、ただいま……」
バレたら強制送還かなーと思いつつ、そっと扉を開ける。と───。
「あ、れ、甲太郎?」
眠ってると思っていた本人が目の前で腕を組んでどこか不機嫌そうにアロマパイプを銜えいて。
むっとするほどのラベンダーの香りに、思わず貌を顰めた俺の襟をいつの間にか甲太郎が掴んでいて。
いつになく真剣な眼差しに現在過去未来、甲太郎には聞かせられない類いの様々な事柄が思い浮かんでやっばいどれがバレたんだろうっていうか殴られる!?と反射的に目を瞑った俺の耳に、感情を伺わせない声が滑り込んできた。
「───脱げ」
「はい?」
え。なにこれ。前にもにたようなことなかったっけ?
「こ、甲太郎さん?もしや強くもないお酒をお飲みになられました?」
「いいから脱げ」
「いやでも俺駅からここまでダッシュしてきたから汗臭いしどうせなら身も心もきれいさっぱりしてからお前を」
「寝言は寝て言え阿呆。いいからさっさと脱げ。それとも剥かれたいのか?」
「わあどうしちゃったの甲太郎さんったら大胆葉佩困っちゃう」
「……」
すどりん直伝のくねくねポーズで頬を赤らめた俺に突き刺さる視線は痛かった。
痛いというより許さない気配にさすがにやりすぎたかなーと甲太郎を見れば。
「え、ちょ……」
いつの間にかパイプは消えていてそのかわり、器用そうな指が俺の服を脱がせはじめてっていや俺まだ靴脱いでないよここでやんの?とすこぶる正直な本能がうっかり喜び勇んで押し倒す前に───。
「なんだこれは?」
「いや、大したことないよ?」
甲太郎といるといつの間にか消える警戒心のポカのせいで、捲り上げられたパーカーの下の包帯をしっかり見られて、それでも往生際悪く足掻く俺に、甲太郎の冷めた声が届く。
「……協会からわざわざ連絡があったんだがな」
「……」
余計なことを。
と、思わなくもなかったがいずれにしろバレただろうから俺はあっさりと降参する。
「いやちょっとヘマをしまして……」
「いつものことだろ」
「……うんまあそうなんだけどっていうか大げさに見えるかも知んないけどほんと、大したことないから!」
「……そうだな。三日間意識不明でようやく目が覚めたと思った途端病院を脱走したわりには元気だよな」
「……」
「……どうせ今回も馬鹿げた約束がなかったらいつもみたいにメールひとつで済ませるつもりだったんだろうが」
「……」
「……だからできもしない約束なんか───」
「甲太郎」
背中で感じる扉の固さと、俺の服を掴む甲太郎の手に目を閉じる。
「馬鹿げた約束なんかじゃないよ……」
行き場を失っていた両腕が甲太郎の背中にまわる。
わずかに跳ねた身体が逃れようと身じろいだけどそのまま抱きしめる。
首筋に鼻を押しつけ、ゆっくりと息を吐けば、嗅ぎ慣れた花の香り。
「……待っててくれたんだろ?」
「───ッ」
俺が帰ってくるって言ったから。
「甲太郎が待ってくれてるって思ったら寝てなんかられないでしょ?怪我したのは俺にミスだし、ただそれだけのことで甲太郎との約束を破るなんてできないんだよ俺は」
「それだけのことって」
「それに甲太郎が俺の“絶対”は当てにならないって言ったから頑張ってみました」
「……阿呆か」
「うん。でもこんな阿呆でも好きでしょ?」
絶対の自信とわずかな期待に自然と口元が綻ぶ。
腕の中の身体から力が抜け、やわらかい髪が頬を掠め。
こたえは噛みつくようなキスと───。
「こ、甲太郎さん……」
「“それだけ”のことなんだろ?」
「いや、ま、そーなんですけど……」
包帯の巻かれた腹に入った拳にうっかり紫色の花の咲き乱れる世界に飛びかけ、踞った俺に甲太郎が、笑う。
ようやく。
いつものように。
「カレーしかないからな」
「……」
俺、一応、怪我人なんですけど甲太郎さん。
実は内臓もちょっぴりやられてたりするんですけど。
「いつまでそんなところでくたばってんだ。鬱陶しい」
俺のこと、好きなんだよね?
←back
2006.06.26
葉佩さん誕生日おめでとう(笑)
【好きだと思うよ】
・top
・novel
・home