「べ、別にっ」
「とりあえず戻ったら説教だからな」
「あれで終わりじゃないのかよ!?」
「お前みたいな電源落ちたらリセットされるような8ビット脳には何度も何度も何度も何度も何度も繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し言わないとほとんどない皺に刻み込まないんだよ」
「……なんだよ8ビットって」
「あー……」
「なにお前わかんのか!?」
「……苦労してたんだね」
「現在進行形だ」
「俺にもわかるように話せー!」

 諸事情によりとある《宝探し屋》に拾われた青と、その《宝探し屋》から青を預かることにした皆守が同時に、親友と、親友の息子に視線をやる。
 そして。

「躾って苦手なんだ」
「いまからやればまだかろうじて間に合う。というか今から矯正していかないと後で苦労するのはお前だからな」
「放し飼いは?」
「───結果があれだ。それでも、いいのか?」
「……がんばる」
「そうだ。頑張れ。お前にならできる」
「だ、か、ら、なんなんだよっ!」
「うるさいそもそもお前が───」

 ぎゃいぎゃいと騒ぐ少年を片手であしらいつつ、皆守が先に外に出て───そのまま止まった。
 暗いはずの目の前が、明るい。
 そしてその光の中に立っていた影が動いた。

「Happy Birthday!」
「誕生日おめでとう〜〜」

 パーン。と軽い音がして夜空に色とりどりの紙が舞う。

「───な、」

 んだ?という言葉は続かない。
 いるはずのない人間が、いる。それだけでも充分、驚きに値するというのに。

「そんなの決まってるでしょー花見だよ花見ー」
「って違うよ九ちゃん!皆守クンのバースディパーティーだよ!」 
「……」

 いい年して九ちゃんも君付けもないだろう。と一度停止した思考は中々正常に動こうとしない。
 ここ数ヶ月音信不通だった《宝探し屋》や學園の体育教師をやっている八千穂や私用で出かけたはずの阿門夫婦や《ロゼッタ》の研究員であるトトや七瀬、そしてその隣りにいる仕事中じゃないのかお前と思われる眼帯に木刀装備の警備員の姿を順に見遣り───。

「……そういうことか」
「ふっふっふ───ミッションコンプリートだぜ九龍っ!」
「よくやった光斗っ!さすが俺の弟子!」

(まったく……)

 背だけは一人前に伸びた《宝探し屋》───葉佩九龍とハイタッチをする為にジャンプをして失敗した光斗というにわか師弟のやりとりをやや呆然と見ていた皆守が、ようやく表情を緩める。
 
「……どうりでお前がおとなしくついていくわけだ」
「まあ、色々大変だったけど」
「光斗か?」
「それは勿論だけど……メールが着たのが昨日だったから結局今學園にいる人達にしか連絡がまわせなくて」
「……あの馬鹿らしいな」
「でも楽しかったよ……光斗じゃないけどみんなで計画練って……って言っても時間がないからとりあえず日付変わる頃にとりあえず甲さんを連れ出せって俺たちそれだけ言われて」
「……へぇ」
「急だったからあんまりこったことはできなかったけど、ここに桜があるって九龍が言ってじゃあそこで花見兼甲さんの誕生日を祝おうってことになって」

 それでこういうことになったんだけど。
 という青の隣りで、森の中でたった一本だけ存在する桜の木をわざわざライトアップしてその下にレジャーシートが敷いてある即席の花見会場を見る。
 皆守自身は昼頃に起きてからすぐ店で仕込みに入ったので、おそらく屋敷の方でつくられたのであろう料理とアルコールやジュースが用意されている。
《遺跡》に入る出入り口は実は複数ある。皆守が入った入り口は家の近くのもので、帰りはここ、屋敷に近い方を選んだ。
 皆守にしてみれば光斗をさっさと屋敷に戻したかっただけなのだが。

《これって桜の木だろ?花咲くのって春なんだよなーってことは俺見れねーじゃん》
《……他の奴らだって知らないさ。ここに入り込む馬鹿はお前しかいない》
《ひでーな甲太郎》

(憶えてたのか)

 あの。

《絶対見に来るからな。ここの桜》

 他愛のないやり取りを。

「そんなわけで、」

《憶えてろよ》

「花見だ」

 塀に囲まれた學園の、人の立ち入ることのない場所でたった一本だけの、桜の木の下で、かつての仲間達が穏やかに笑っている。
 その中心で、昔と変わらぬ悪童めいた貌でこちらを見ている男に、皆守も笑いかけた。

「九龍」
「ん?」
「───お前が光斗を遺跡に放り込んだのか?」

 それまで和やかだった雰囲気がその絶対零度の声音に固まる。

「……な、なんのことかな?」
「こいつらは《訓練所》まで入り込んでたぞ」
「……どういうことだ葉佩」
「お、おちつけ阿門。ただでさえこわい顔がもっと怖いことになってるぞ?」
「……」
「いやだからお父さん、誤解。誤解ですから」
「九龍」
「なッ……にかな?」

 皆守は笑っていた。
 試行錯誤を繰り返したカレーが改心の出来だった時に見せる笑みと同じような、それでいて決定的に違う笑みを浮かべたまま、挙動不審な師匠を見、それから、その師匠からそっと離れようとしていた弟子に声をかけた。

「光斗」
「な、なんだよ」
「正直に言え───お前をあそこに放り込んだ馬鹿は誰だ?」

 その声に逆らえる人間はこの場にはいなかった。
 勿論、にわか弟子も例外ではなく。

「九龍」

 即答だった。

「───ちょ、」
「……そうか」
「こ、ま、まてっ!」
「なんだ、遺言か?」
「違うッ違いますっ!!」
「ああ、つまり思い残すことはなにもないと?」
「ち、ちがっ」
「なんだよ、往生際が悪いな」
「甲太郎それきらきら笑顔で言うようなことじゃないよ!」
「じゃあな───九ちゃん」
「ぎゃーーーーー」

 その夜。
 ある學園の敷地内から人とも獣ともわからない奇声が聞こえた。
 という通報が数件あったらしいのだが、その學園は十数年前と同じように沈黙を守った。


←back

2007.04.12
アロ誕?
アロ誕ですよ(暗示)
ハッピーバースデー32歳( ´ ▽` )ノ
つーか落ち着きのない三十路どもですみません。

【いくつになっても子供】


・top
・9ron
・novel
・home