愛・縁・奇・縁 -影法師-
「こんにちは」
「……ちは」
自称も他称もお姉ちゃん大好きな京一が、それでも、その笑顔にどこか気圧されるように小さく会釈する。
それを見てまた涼やかな声がやわらかく弾けて、本当に、めずらしいことに、京一は途方に暮れる。
きれいな子や可愛らしい子に声をかけるのはもはや義務で、それはいつまで経っても新婚ラブラブバカップルの片割れ───一見軟派そうには見えない端整な顔立ちの父親の教育の賜物でもあるのだが、軟派百人斬り(主に斬られるのは京一の方だが)にも果敢に挑みそして成果はともかく達成したこともある京一だ。
それが。
艶やかな黒髪は長く、白く透き通った肌に埋め込まれた双眸も深い色を宿して静かに瞬いている。かなりの美人。しかも清楚系。……今まで似たようなお嬢様タイプもいたがそれとは次元が違う。
まるで。
「《緋勇》……いえ、龍麻はいるかしら?」
「……」
「───何しに来やがった、《美里》」
不機嫌そうな、それでいて低く艶めいた声が耳朶を掠めるのと同時に、目の前の美女が楚々と微笑む。
「……ひーちゃん」
自分の肩を引き寄せるように───そしてこちらもめずらしく苛立ちを隠そうともしない《緋勇》───龍麻の顔に視線をあげる。
髪も服も肌の白さとは対照的な黒の中で唯一、炯々と輝く金色の瞳が真っ直ぐ、前方を睨んでいて。
「それを貴方が訊くの?」
「……」
その視線を昂然と受け止めて、さらに美女の笑みが深くなる。
そして龍麻の機嫌が斜めを通り越して下降の一途を辿り、なにやら物騒な気配を纏い始める。
そしてまた自分も───。
(……なんだ?)
胸の辺りがじわりと痛む。
龍麻の《氣》にあてられたのかと、無意識に眉を潜めると、こめかみに何かあたたかいものが押し当てられてすぐ離れた。
同時に胸の不快感が消え───。
「悪い京一。少し出てくる」
「お、おう」
不穏な気配が霧散して、こちらの目を覗き込むように微笑む龍麻にほとんど反射的に頷くと、良い子だ。とでもいうように額に軽く口付けられる。
(あれ?)
「行くぞ」
「……ええ」
沸き上がった感情を掴みきれないまま、ただ目は龍麻の背を追って───そしてその隣りに並んだ美女に視線を合わせたところで、小さく息をのんだ。
後ろから見ると真っ黒なそれこそ影のような龍麻に、寄り添うように並んだ美女の足元に《影》はなかった───。
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2006.02.10
で、京一サイドは一旦終了。むしろここで終ってもいいんですが、忘れそうなので龍麻さんサイドを。むしろ菩薩眼なあの方のフォローを(笑)
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