(なんか目も冴えちまったし、朝日でも拝みにいきますか〜)

 強張った体を解すように大きく伸びるとそのままの勢いで立ち上がる。
 上着だけをひっかけて音を立てないように歩き出し、入り口の前で宿屋の女将さんに軽く会釈をして外に出る。

(そーいえば前にも見たな。ここで)

 階段を降りて立ち止まるとちょうど太陽が昇ってきたところで。
 二つの大陸を結ぶ橋の上にあるこの街にいい思い出はあまりない。
 けれど。

「おはよう」
「……おはよう」

 ほとんど間を置かずに現れた気配にひっそりとため息をつく。
 ごく自然に隣に立ったリューイを盗み見て。何か言いたいことがあったはずなのに、今なら言えるかもしれないのに、 口から出た言葉は他愛のないもので。

「つうか寝癖」
「ククールもひどいよ」
「何、その袖」
「……直してる暇がなかったっていうか、タイミングっていうか、止められるっていうか……」
「どーりでいっつも捲ってると思えば……」
「うるさいな」

 いつもはバンダナの中に収められている髪がところどころ跳ねているのは仕方がないにしても、青いシャツの袖は長すぎだ。指先しか見えない。

「だいたいククールが───」
「……オレが?」

 どこか不貞腐れた表情で袖をまくり上げるリューイの姿に笑みを刻んだ口元が面白そうに歪む。
 喜怒哀楽がないとは言わないが感情の発露が希薄なところのあるリューイがうっかり口を滑らせる。というのはめずらしいことで。

 こいつも寝起きは人並みにぼけぇっとしてるんだなぁと、どこか朗らかな気持ちになっていると。

「……『串刺しツインズはなんで茄子じゃないんだ!』とか言い出すから」
「……なんだよそれ」

 ため息とともにこぼれ落ちたリューイの台詞に地味に体が傾いた。
 そうだ。こいつはこういう奴だった。と、がっくりと力の抜けた声に、こちらもどこか憮然とした声が続く。

「……夢」
「夢?」
「うん。で、『オレは茄子の串刺しツインズを探しに行く』とか言ったところで目が覚めたんだけど、隣、ベッド空だったから、って。え?」
「───で、慌てて追いかけてくれたわけ?」
「や、違うけど。っていうか、」
「ところでなんで茄子?」
「それはたぶん、昔、城の図書館で見た古い文献で縁起のいい初夢っていうのに『茄子』っていうのがあって……だからなんでくっついてんの?」
「イヤ?」

 後ろから抱きついても投げ飛ばされたり雷が落とされなかったので、調子に乗ってその耳朶をくすぐれば。

「嫌っていうかもう慣れたっていうか……楽しい?」

 あきれたような、あきらめたような、声が光の中に溶けて。

「うん」

 寄りかかってきた体温を腕の中に収めれば。

「じゃあいいけど。あ、そうだ」

 肩越しに見えるその光景は。

「なに?」

 同じ、

「───今年もよろしく」
「……こちらこそ」


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